中国のCO2削減は技術課題ではない!
第2章では、欧州、米国、中国、そして日本におけるクルマの排出CO2を2030年までに2013年比で30%削減するには、どうすればいいのかを話してきた。2016年世界各国における温室効果ガス排出量の割合を図22に示した。インド、ロシアなどシェアが5%を超える国々が残っているが、先に述べた4つの地域は世界全体の49.5%のシェアを占めている。
これらの地域でクルマのCO2量を30%削減するには、初めから分かっていたことではあるが、EV化率を上げることが重要な課題の一つである。ただし、それだけではなく、地域毎に特徴的な課題も残されている。簡単にまとめると、
❏欧州@EC27ヶ国☛
これまでの燃費改善努力もあり、諸外国の中では最もCO2削減に力を入れてきた地域である。ただし、2015年のディーゼル不正問題からディーゼル化率が60%以上あったのに、年々の低下で2019年には30%と半分になってしまった。これによりクルマ全体のCO2排出量が2015年から徐々に上がり、2021年95g/㎞規制を前にして2019年にはここ5,6年で最大値を示している。
これに対して、2030年EV化率5%、HV化率10%、電動化率75%ではCO2削減率は25%に何とか届く状態だ。30%低減するには2030年EV化率20%、HV化率20%、電動化率100%に上げる必要がある。
❏米国☛
先進国の中では中国に次いでCO2削減努力が低い国である。シェール革命の恩恵を受けながら、EPA報告では燃費低減を徐々?に実施していると思われる。だが、一方ではSUV・ピックアップトラックのシェアが2019年には70%を超える状況で、国内外のエンジンメーカーも利益率の高いSUVに貢献している。当然トヨタ社も例外ではない。
現状の電動化の延長路線では2030年にCO2削減率は17.9%程度で、さらに天下の宝刀であるZEV規制を全米の11州に施行しても、21.5%に留まる。これを全米50州に施行すれば、削減率は30%に到達する。国内事情は色々となると思われるが、CO2排出国第2位の汚名を返上するため、是非ともZEV規制を全米で施行してもらいたいものである。
❏中国☛
何と言っても、世界の温暖化ガス排出量の25%@2016年を占める国、そして2018年人口14億人となった国、2016年からSUV化率を50%以上維持している国、ただし一人当たりのCO2排出量が2017年第6位(日本第4位)の国、ということで特徴を上げたらきりがない。それだけCO2削減が難しい国なのである。しかし、何としても中国政府総力を挙げて、コロナ禍対策と同様に努力してもらわなければ、100年後、いや50年後に地球は温帯地域が亜熱帯に変わり、人間の住むところが激減してしまう、そんな状況だ。
ZEV規制とは異なる意味のNEV規制を大幅に見直し、EV化率を2030年までに20%にしても、CO2削減どころか、2013年比で1.2倍に増加してしまう。EV化率を50%に上げてもCO2量は現状維持のままである。一番の問題は、新車販売台数を平年よりも少なめの2,200万台の減少させても、2030年保有台数が3.3億台と2014年の2.3倍になってしまうことだ。要するに、EV化率を上げるレベルで何とかなる問題ではない!ということだ。中国政府は是非ともEV化率を上げるとともに、公共機関の拡充、シェアリングなどで保有台数の増加率を大幅に減少させてもらいたいものだ。
❏日本☛
世界の先進国の中でクルマCO2削減に最も貢献してきた国だと自画自賛した。これまで関与した方々に敬意を表したい。一番の要因は、燃費効率向上を顧客満足度を上げる最優先事項としてクルマ開発を進めてきたことだろう。お蔭でHV化率・軽自動車化率を合わせて2019年では65%を超えるようになって来た。SUV化率が50-70%を超えるようになって来た欧米中諸国とは全く違う方向、CO2を全体で大幅に下げる方向に進んできた。
そのお蔭で保有台数6,000万台を維持すれば、EV化無くとも現状の軽自動車シェア、HV化率を2019年28%から2030年40%に引き上げることで、2030年のCO2削減率は30%に達する。人口減少、高齢化が進む中、保有台数の現状維持は難しい問題ではないと思われる。ただし、欧州同様、保有台数を5%増加させた場合は、2030年のEV化率は10%まで広めなければならない。2017~19年時点でEV・PHV化率は1%弱であるため、今後毎年1%上げなければならない。いくらCO2削減目標は達しているとはいえ、2030年EV化率10%を達成しなければ、世界の潮流に乗り遅れた今の米国(Tesla社は別)のようになってしまう。日本のメーカーの方々には是非とも期待したい。
出典☛「今さら聞けないパリ協定」経産省エネルギー庁ホームページ
@2017.8.17 より加筆
未だパリ協定の約定目標は、現状路線の延長上!
以上、各国・地域についてまとめてみた。今回の簡単な計算で、現状路線の延長でCO2削減を行えば、図23に示した日本、米国、欧州におけるパリ協定の約定目標に非常に近い値になったことも分かった:
❏日本:約定目標26%⇔予想26.5%
❏米国:約定目標18~21%⇔予想17.9~21.5%
❏欧州:約定目標24%⇔予想25.0%
したがって、先進国でさえ2020年に提出した2030年目標はあくまで現状維持路線で、「何とかして地球温暖化を食い止めよう!」というものではないのだ。
出典☛「今さら聞けないパリ協定」経産省エネルギー庁ホームページ
@2017.8.17 より加筆
第1章の冒頭で触れたように、「パリ協定には法的な縛りが全くない」ということで、「世界各国・地域の倫理的道徳心」に負うところが大きい。話が別だが、日本のコロナ禍の対策のようなものだ。図24にCO2量の増減傾向とパリ協定の意味を示している。CO2の排出量の半分以上を占める先進諸国が、さらなる追加対策を積極的に追加していかなければ、図中の予想直線(赤線)のようにCO2は増加してしまう。そして、目標の2℃とは全く別次元で、2030年現状予想温度3℃になり、2100年には5℃を超える温度となってしまうことが大いに懸念される。
暗い話ばかりになってしまったが、各国の規制強化はしっかり行って頂くとして、クルマのCO2を削減するには「EV化に賭けるしかないのか?」ということを、この後の章で議論していきたいと思う。@2021.1.27記
出典☛「World Outlook 2016」@IEA から加筆