NEV規制は大気汚染対策❔
さて世界第1位のCO2排出国である中国は、クルマのCO2をどの程度下げてきたのであろうか?これに対して、欧州、米国のように定量的に議論を進めるのは難しいことを最初に申し述べておく。議論できる燃費の詳細データが全く公表されていないからである。
中国では先ずは都市部の大気汚染問題を何とかしたいというのが実態で、CO2問題などは二の次と考えているのだろう。確かに中国メーカーの排気ガス浄化技術はかなり遅れていたというのが実態であろう¹⁾。最近中国が得意とするIT技術のようにはいかないようだ。
したがって、このような事情の中で、いきなりNEV規制を導入しようとしたのだ。地球温暖化の減速という高邁な目的で始めた米国ZEV規制には似せてはいるものの、事情は全く異なっていた:
1)都市部のPM2.5対策(要はCO2削減対策ではなく排気ガス対策)
2)中国メーカーの自動車技術が未だ向上せず、独系、日系、米国系などに50%を超えるシェアを抑えられているため、ここで世界の3大メーカーにEVで肩を並べよう!という政治的スローガン²⁾
複雑な高熱効率のエンジン開発に中国技術陣はなかなか追いつけず、HVなどの電動化技術は到底無理で、中国政府からは簡単そうに見えるEVで国内シェアを何とか奪回しようと考えたと思われる。その結果として、中国は2019年世界のEVシェア39%で堂々の世界1位となった³⁾。あくまでEVの世界シェアは2%、中国国内でも4%と未だ小さい。
そんな訳で1990年代のクルマと2010年代のクルマが混在する中国クルマ社会において、いきなりEVを数%登場させても大気汚染を止める効果は薄く、また補助金も打ち切られる中、一般消費者に浸透するはずもない。以上のような中国の事情を踏まえて、欧州、米国と比べればかなりざっくりとしているが、燃費改善状況について話を進めていきたい。
乗用車販売台数2,400万台/年、SUV化率50%以上の中国市場
図13に中国内での乗用車販売台数とSUV化率の2013~2019年推移を示した⁴⁾。2017年には商用車含めた総販売台数は2,888万台で、その内乗用車はSUV、MPV含めて2,472万台。その後、総販売台数2019年まで減少傾向にあり、2020年はコロナウイルスの影響でさらに減少すると予想される。ただ、2019年時点で10年連続で世界最大の乗用車市場になっているのは事実だ。図には燃費に大きく影響するSUV化率も同時に示した。2013年に33%であったのが次第に増加し、2016年には50%に達成した後は50%台をキープしている。米国の70%@2019年という程ではないが、欧州の38%@2019年を超えており、2016年以降50%台に突入して燃費は悪化傾向にあると思われる。
出典☛自動車販売台数速報 中国2013年-2019年@MarkLines のデータからグラフ化
図14に2017年世界各国のCO2排出量の割合(左図)、一人当たりのCO2排出量(右図)を示した。中国は世界の30%近いCO2量を排出しており、何とかクルマのCO2低減でも劇的に改善していってほしいと思う。ただし、一人当たりのCO2排出量をみると、米国の半分以下。2018年人口が14億3,500万人を超えた事実を考慮すると、EVに頼りたくなるのも良く理解できる。ただ、EV以外95%シェアのガソリン車、特に全体の50%のシェアを維持しているSUVの燃費改善、いや燃費革命を起こしてほしいと思う。米国がZEV規制でお茶を濁しているように、中国もNEV規制で同じようなことをしないでほしい。
これほどまでに、悲観的な中国状況を理解して頂くために、数少ないデータから中国がどの方に向かうべきなのか、具体的に話をしていこう。@2021.1.21記
出典☛「2017年世界のCO2排出量」@JCCCA から加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)中国メーカシェアは2013-2019年までは40-50%で変動。残りは先進国の現地生産車。中国内メーカーのクルマは未だ排気ガス対策に汲々としている感じ。
2)VW社、トヨタ社、ルノー日産三菱連合の1,000万台クラブに対して、第一汽車・東風汽車・長安汽車の最大手3社が合併して中国政府をオーナーとする世界最大級の自動車メーカーが誕生するという可能性も囁かれている。例えば、「中国の電気自動車が日欧米より有利なワケ」PRESIDENT Online@2018.5.18
3)第1章第2話の図4参照
4)自動車販売台数速報 中国2013年-2019年@MarkLines