2019年電動車割合は8%、その内半分がEV!
前話で欧州が2013年比で2030年にCO2を30%削減するために、目標平均CO2@2030年=130gr/㎞が必要であることを説明した。この目標値を達成するためには、2030年までにどんなクルマの構成に変えていくべきか?をいくつかの構成例で議論していきたい。
先ず2030年の保有台数2.21億台の内訳を考えてみよう。計算上複雑になるため、2016年~2030年までのクルマ販売台数は毎年1,470万台として、その内訳を考えていこう。参考として、2010年~2019年までの電動化率を図7に、2018-19年の電動車の内訳を図8に示した。図7によれば、電動化は2014年2%から2019年8%まで徐々に増加傾向にある。また電動車の比率も2018-2019年だけであるが、EV40%、HV60%となっている。そこで、この数値を基に2020-2030年の2つのケースを考えてみた。
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2つのCASEで考えてみよう!
一つはこれまでの延長上でEV化を進めた場合、もう一つはEVの技術的課題がかなり克服できて消費者に受け入れられた場合である。なお、ここの電動化率にはEV、HV、BSGのすべてを含んでいる:
❏CASE-1☛従来の延長上でのクルマ販売
(2030年EV化率5%、HV化率10%、電動化率75%)
1)EV:3%@2016-2020、5%@2021-2030年
2)HV:3%@2016-2020、10%@2021-2030年
3)GV、DV:94%@2016-2020、65%@2021-2025、25%@2026-2030年
4)BSG:0%@2016-2020、20%@2021-2025、60%@2026-2030年
❏CASE-2☛EV化、電動化の強力な促進
(2030年EV化率20%、HV化率20%、電動化率100%)
1)EV:3%@2016-2020、5%@2021-2025、20%@2026-2030年
2)HV:3%@2016-2020、10%@2021-2030、20%@2026-2030年
3)GV、DV:94%@2016-2020、65%@2021-2025、0%@2026-2030年
4)BSG:0%@2016-2020、20%@2021-2025、60%@2026-2030年
2030年には20%のEV化率が必要!
さて、両CASEでの平均CO2を求めるためには、各クルマにおけるTank-to-Wheelの平均CO2量が必要となり、そこでモードCO2の値から次のように仮定した:
1)EV☛Tank-to-WheelのCO2量=ゼロ
2)HV☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞@2016-2020年
85gr/㎞/0.85=100gr/㎞@2021-2025年
75gr/㎞/0.85=88gr/㎞@2025-2030年
3)GV☛119gr/㎞/0.85=153gr/㎞@2016-2030年
4)BSG@燃費効果10%☛153✖0.90=138gr/㎞@2021-2030年
これらの各クルマの平均CO2の値から、CASE-1、CASE-2の
❏CASE-1☛平均CO2@2016-2030年
={112✖0.03✖5+100✖0.10✖5+88✖0.10✖5+153✖0.94✖5+153✖0.65✖5+153✖0.25✖5
+138✖0.00✖5+138✖0.20✖5+138✖0.60✖5}/15=138.02≒138gr/㎞>129gr/㎞
❏CASE-2☛平均CO2@2016-2030年
={112✖0.03✖5+100✖0.10✖5+88✖0.20✖5+153✖0.94✖5+153✖0.65✖5+153✖0.0✖5
+138✖0.00✖5+138✖0.20✖5+138✖0.60✖5}/17=128.21≒128gr/㎞≒129gr/㎞
第1話で定義した削減割合は
❏削減割合@CASE-1
=1-平均CO2@2030年/平均CO2@2013年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
=1-138/184✖2.21/2.21=0.250=25%
❏削減割合@CASE-2
=1-128/184✖2.21/2.21=0.304≒30%
つまり、これまでの延長上で考えた時、EV化率=5%では130gr/㎞は達成できず、138gr/㎞とCO2削減率24%にとどまる。まさにこの数字は、欧州が約定した2030年目標24%と同じ値³⁾となった。欧州は現実路線で到達できる目標値を単に約定したに過ぎない。全く本気でないことが理解できる。少なくともEV化率を5%から20%に一気に引き上げないと、129gr/㎞には到達できない。
ここで、不思議なことが❔
ただここでさらに面白い計算結果がある。2021年燃費規制値95gr/㎞は一体クルマ社会にどんな影響をもたらすのか?をCASE-3として推定してみた:
❏CASE-3☛2021年以降は95gr/㎞の延長上@2030年EV化率5%
1)EV:3%@2014-2020年、5%@2021-2030年☛0gr/㎞
2)HV:3%@2014-2020年☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞
3)GV、DV:94%@2016-2020年☛119⁴⁾gr/㎞/0.85=153gr/㎞
4)2021年規制車:95%@2021-2030年☛95gr/㎞/0.85=112gr/㎞
以上の仮定を基に平均CO2を計算すると、
❏CASE-3☛平均CO2@2014-2030年(EV化率5%)
={112✖0.03✖5+153✖0.94✖5+112✖0.95✖10}/15=120.0≒120gr/㎞<129gr/㎞
つまり、2021年欧州規制95gr/㎞を達成したならば、2021-2030年のEV化率が5%のCASE-1でも何と目標値129gr/㎞を余裕をもって達成することが出来るのである。削減割合は、
❏削減割合@CASE-3
=1-120/184✖2.21/2.21=0.348≒35%
2030年に保有するクルマのCO2削減率は、2013年比で35%にもなる。具体的構成として、5%のEV以外を例えばトヨタプリウス95gr/㎞(平均実CO2=112gr/㎞)にすれば、123gr/㎞以下となる。
もちろん、EV化率を上げることは重要であるが、それよりもどんなクルマの構成で2021年規制95gr/㎞を達成するかが重要であり、罰金を納めさせても温暖化には何の寄与もしない。第1章第1話で最近の欧州CO2の動向に触れたが、2020年1-6月に118.5gr/㎞であったのが、1-8月では102.2gr/㎞に突然下がっている。これは重要なことで、どんな構成にしたから下がったのか明確に表明すべきである。何しろ、2013年比で2030年には35%もCO2を下げることが出来るポテンシャルをこの構成には存在しているかもしれないからだ。EV化の必要性はどこかに吹き飛んでしまうからだ。95gr/㎞規制がそれほど厳しい規制ということになるかもしれないが、トヨタのHVは既に95gr/㎞規制はクリアしてる。簡単な計算結果による今回の結論にご不満の方はぜひご一報頂きたい。@2021.1.18記
《参考文献および専門用語の解説・補足説明》
1)「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2)図3における2015-2020年の平均値=119.3gr/km
3)「今さら聞けないパリ協定」経産省資源エネルギー庁ホームページ@2017.8.17
4)第1章第1話の図2から2016年~2020年の平均値=119.38gr/㎞