EV化によりクルマは安価な電化製品に❔
EVの長所は、前話で触れたWell-to-Wheelのトータル効率がいいという点が挙げられた。さらに図4に示したように、エンジン車はエンジンの複雑化の歴史であると電気関係者は言われる。ただし、これは1900年頃から100年以上もEVが世の中に受け入れられなかったというのが一番の原因である。クルマという移動体が消費者からのニーズ、社会環境の必要性から高性能化、排気対策、そして燃費低減、そのための電動化、さらにはCASE¹⁾対応と益々内容は複雑化しているのは事実であろう。
ところが、EV化したからと言ってクルマが単純な構造、安価な電荷製品になる考えるのは一部の電気屋が考えた妄想であると思う。確かに特殊化したエンジン部品は系列部品メーカー、もしくはTier1²⁾と呼ばれる大部品メーカーで開発・供給されていた。これがEV化されると電池とモーターが主要部品ということで汎用化された部品となり、安価なEVが出来上がると考えているのである。それを良しとしても、クルマはパワートレーンだけで動くものではない。トルク伝達部品、制動系・操舵系・懸架系・ボディ・タイヤ、そしてCASEのCAS部品など従来とほぼ同じ部品を必要としている。現在のガソリン車の安全性を加味すると、とても家電製品と同じ扱いは出来ない。したがって、図4のようなことは妄想と申し上げているのである。もしも、安全性・快適性・環境性を無視した、中国の一部で売られている小型EV(車両価格50万円前後)のことを言われているのであれば、それは一部正しいかもしれない。
出典☛「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣@日刊工業新聞社 より加筆
LiB容量を増やせば航続距離は伸びるが、車両価格は上がる!
では第1章第2話で示した最新EVを含めた、EV搭載のLiB容量(kWh)と航続距離、車両価格をまとめたものを図5に示した。プレミアムカーとしてTesla社モデルS、モデル3、欧州Cセグメント³⁾EV(中型)としてVW社ID.3、トヨタ社CH-R、日産リーフ、BMW社i3、そして中国から代表的なBAIC社、BYD社のEVを選択してみた。航続距離はWLTCモード、中国2社はNEDCモード⁴⁾のデータを示した。
LiB容量(kWh)と航続距離(㎞)の関係については、比較的綺麗な曲線上にプロットされている。Tesla社モデルSを除けば、ほぼ直線関係になる。当然ではあるが、LiB容量が多くなれば航続距離は伸びていく。中間的なEVとしてLiB容量50kWhを選択すれば、航続距離が400㎞となる。これが今のEVの実力と言えるだろう。
注)最新EVのネットデータを基に当技研が作成@2021.2.5
現実のEVは航続距離400㎞で価格400万円の高級車?
図5に示したEVについて、図6にLiB容量(kWh)と車両価格の関係を示した。分布は少々ばらついているが、プレミアムカー、標準Cセグメント車、そして中国EVの順に価格は下ってくる。図5と同じように、LiB量を多くすれば航続距離が伸びて、車両価格が上がる。要するに、EV価格はLiB容量に大きく左右されているということだ。中間的なEVとしてLiB容量50kWhを選択すれば、車両価格は400万円辺りとなる。つまり、2020年の段階ではEV化は決して安価な方向では未だないことがご理解いただけると思う。さらにこの後議論するが、標準的なLiB容量50kWhでは1回の充電で400㎞しか走れない。恐らく、実走行距離ではWLTCモードでの80%程度となり、300㎞走行するとEVは動かなくなる!安心して動かせるには最大でも250㎞程度となる。これが今のEVの実力であり、CセグメントのHVがガソリン容量80%程度で700-800㎞走行できてしまうのと比較すれば、顧客側には400万円もするEVを選ぶ理由が全く存在しないと言える。
ガソリン車からEVになれば、家電製品のように汎用部品が使えるため、安価なクルマが手に入る?というのは電気屋が考えた妄想と言っても過言ではないことがご理解いただけたと思う。@2021.2.6記
注)最新EVのネットデータを基に当技研が作成@2021.2.5
《参考文献および専門用語の解説》
1)CASE☛Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Service(シェアリング/サービス)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語
2)Tier1☛OEMと直接取引をしている会社・またはその部品
3)Cセグメント☛主に欧州で利用されている乗用車の分類方法であるセグメントの1カテゴリーで、BセグメントとDセグメントの中間に位置付けられる。全長はセダンとステーションワゴンで4,350mmから4,600mm。
4)NEDCモードではWLTCモードよりも約10%程燃費が良くなる。