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第10話  燃料消費率等高線(燃費消費率マップ)

「さて今日は昨日、図1-12で説明に使った燃料消費率等高線³³⁾³⁴⁾について説明していこう。これは燃料消費率マップとも呼ばれ、エンジン性能線図で重要な情報の一つになる。ただ、意外と何故その渦巻き曲線が生じるのか理解されていないし、詳しく説明した資料も見当たらない。」

「専門誌でエンジントルク、出力線図と一緒に見ることがあるけれど、何でこんな形になるんだろうか?と思っていた。」

「実はこの渦巻き線図は、これまで説明してきた正味熱効率で説明できるんだ。今回は事例としてOPELアストラ³⁵⁾に搭載された4気筒2Lのエンジン性能線図を図1-14を準備した。」

 

図1-14 燃料消費率等高線

出典:「燃料消費率等高線」太田安彦@Eine bequeme Reise(Internet 資料)

   「ガソリンエンジン」中島康夫、村中重夫@山海堂;p56 から加筆

 

「一般にはBSFC(図中ではSFCと表示)の値が同一である等高線を描くと、燃料消費率マップが出来上がる。図1-14において、最大トルク特性はWOT³⁶⁾の条件で示されている。WOT曲線付近にSFC=240(gr/kWh)という最小燃料消費率領域が谷底みたいに存在しているのが分かるだろう。燃料消費率f(gr/kWh)は軽負荷側に行くほど悪くなり、SFC=600(gr/kWh)まで悪化していく。基本的には最小燃料消費率領域から外に広がっていくにつれて、燃費は悪くなる傾向にある。このような曲線になる理由は、これまで詳しく説明してきた正味熱効率ηeである程度説明できる。

ここで、燃料消費量F(㎏/h)、出力P(kW)、供給熱量Q1(kJ)、低位発熱量Hu(kJ/kg)、仕事W(kJ)、正味熱効率ηeで表すと、燃料消費率fは

f=10³×F/P=3.6×10³×Q/(Hu×W)=3.6×10⁶/(Hu×ηe)

で表される³⁷⁾。あとでいいから、ゆっくりと単位を合わせながら、導いてほしいな³⁸⁾。つまり、この式から正味熱効率ηeと燃料消費率fのf関係は反比例の関係にあるということだ:正味燃料消費率f(gr/kWh)∝1/ηe

「燃料消費量が多いほど燃費は悪くなる。感覚的にも合うね。」

「この関係から、燃料消費率fが分かれば正味熱効率ηeを求めることも出来る;

正味熱効率ηe=3600×1000/{燃料消費率f(gr/kWh)×燃料発熱量H(kJ/kg)}

この式から燃料消費率fが分かれば熱効率ηeが求められるよ。」

「一度計算してみるよ³⁶⁾。」

「さて燃料消費率fと正味熱効率ηeの反比例関係が分かったところで、いよいよ燃料消費率等高線が何故こんな形になるのかということを説明するね。まずもう一度整理すると第7話で説明した正味熱効率ηe、正味燃料消費率fとの関係は、

❏ηe(正味熱効率)=ηi(図示熱効率)×ηm(機械効率)

        ={Wth-(WL1@冷却+WL2@時間+WL3@排気+WL4@ポンプ)}×ηm

❏正味燃料消費率f∝1/ηe

この2つの関係式から、図1-9に示した方向➊~➍について順に説明していこう:

➊最小燃費域240(gr/kWh)から軽負荷域の方向

第1に、平均有効圧力を下げる➡トルクを下げる➡噴射量を下げる➡理論熱効率に見合った空気量まで下げる、といった具合で、スロットルバルブを絞る方向になる。そのため、ポンプ損失仕事WL4が増加する。第2にトルクが低い軽負荷側にいくほど、容積型燃焼室の欠点で燃焼室の比熱量の比率が発熱量に対して大きくなるため、冷却損失WL1も増大する。第3に、燃焼温度が下がり、それにつれてシリンダーの壁温も下がって潤滑油温も下がるため、往復動の機械摩擦仕事Wfが増加して機械効率ηmが下がってしまう。以上の要因から、WL,Wfが増加して正味熱効率ηeが下がり、軽負荷側の方向に燃料消費率fは増加していく。

➋最小燃費域240(gr/kWh)から高負荷方向

容積型燃焼室の欠点であるが、最適容積から逆に燃焼室のガス比熱よりも燃焼熱量が多くなりすぎても、燃焼室内のガス比熱では吸収し切れず、結局冷却損失WL1は増加する。これは一定容積型燃焼室の欠点で、エンジンに要求される正味平均有効圧力に対して最適排気量を外れると冷却損失WL1は増加して燃料消費率fは増加していくという訳だ。

➌最小燃費域240(gr/kWh)から低速域方向

エンジン回転数が小さくなると、ピストンの往復動の速度が下がり、吸入バルブからに吸気の速度が下がる。そのため乱流火炎の伝播速度、いわゆる燃焼速度が下がるため、時間損失仕事WL2が1,000rpm近傍から急激に増加する。またピストン速度が下がるため、シリンダー摺動部の機械摩擦仕事Wfも増加してしまい、燃料消費率fは増加していく。

➍最小燃費域240(gr/kWh)から高速域方向

エンジン速度が大きくなると、ピストン速度、その他の運動系の速度が増して、単位時間当たりの機械摩擦仕事Wfが増加してしまい、燃料消費率fは増加していく。

ということで、マップは渦巻き状の曲線になる。」

「なるほどね。それぞれの方向に対して損失仕事、機械摩擦仕事が増加して効率ηeが下がり、燃料消費率fが増加していくという訳か。燃料消費率等高線が渦巻状になるということだね。よく分かったよ。」

「この燃料消費率マップは、これからの燃費を語る時には大変重要なことなので、特にHVの話の時には思い出してほしいね。」

「了解。今日の話は重要なことばかりだし、また数式も多かったような気がする。明日一日、今日までのところを整理して分からないところを探しておくよ。」

何とか、正味熱効率、燃料消費率等高線が理解できたようだ。明日午前中はプールに行って、昼寝してから復習すると言い残して、自分の部屋に戻っていった。何とか飽きずに基本的な勉強はできたようだ。2、3日間を空けて、いよいよガソリン燃焼、ディーゼル燃焼について説明していく予定だ。@2019.7.20記、2019.11.28、2019.12.12修正

 

《参考文献および専門用語の説明》

33)「燃料消費率等高線」太田安彦@Eine bequeme Reise(Internet 資料)

34)「ガソリンエンジン」中島康夫、村中重夫@山海堂;p56

35)アストラ☛1991年に欧州で販売開始され、トヨタのカローラに次いで世界で2番目に多く販売されたクルマだ。

36)WOT☛Wide Open Throttle;フルスロットルの意味

37)「ガソリンエンジン」中島康夫、村中重夫@山海堂;p27

38)正味熱効率ηeについては次の式で表せる:

❏ηe(正味熱効率)=We(正味仕事)/Q1(発生熱量) 

エンジン出力P(kW)を使って正味熱効率ηeを表す。つまり正味仕事We=エンジン出力P(kW)であるから、次のようにも表される:

❏ηe(正味熱効率)=エンジン出力P(kW)/Q1(発生熱量) 

ここで、燃料1kgの発熱量をH(kJ/kg)、1時間当たりの燃料消費量をF(kg/h)とすると、1時間当たりの発熱量Q1(kJ/h)は、

❏発熱量Q1(kJ/h)=燃料発熱量H(kJ/kg)×燃料消費量F(kg/h)

そこで、先ほどの正味熱効率ηeは次のように表される:

❏正味熱効率ηe=エンジン出力P(kW)/発生熱量Q1(kJ/h)

=エンジン出力P(kW)/{燃料発熱量H(kJ/kg)×燃料消費量F(kg/h)}

さらに、時間を秒に統一(h☛sec)すると、

❏正味熱効率ηe=エンジン出力P(kW)/{燃料発熱量H(kJ/kg)×燃料消費量F(kg/3600sec)}

=3600×P(kW)/{燃料発熱量H(kJ/kg)×燃料消費量F(kg/sec)}

上式から燃料消費量F(kg/sec)とエンジン出力P(kW)の比を求めると、

❏燃料消費量F(kg/sec)/エンジン出力P(kW)=3600/{正味熱効率ηe×燃料発熱量H(kJ/kg)}

と書き直すことができる。重量単位をgrに合わせると、

❏燃料消費率f(gr/kWh)=1000×F(kg/h)/P(kW)

=1000×3600/{正味熱効率ηe×燃料発熱量H(kJ/kg)}と導かれる。

39)ガソリンの低発熱量H=44.4(MJ/kg)=44.4×1000(kJ/kg)として、図1-14のf=240、600(gr/kWh)の時の正味熱効率ηeを求めてみた:

➊f=240(gr/kWh)☛ηe=3600×1000/(240×44.4×1000)=0.338≒34(%)

➋f=600(gr/kWh)☛ηe=3600×1000/(600×44.4×1000)=0.135≒14(%) 

逆に熱効率ηe=40(%)ではf=203(gr/kWh)。ここで、低位発熱量☛燃焼ガ ス中の生成水蒸気が凝縮したときに得られる凝縮潜熱を含めた発熱量を高位発熱量といい,水蒸気のままで凝縮潜熱を含まない発熱量を低位発熱量という@Wikipedia。

 

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    • 第3話 EV化は進むのか
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