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第6話 理論熱効率ηthの話

「昨日はエンジンの5つの仕事について説明したけれど、分かったかな?」

「話を聞いた時は、頭の中でゴチャゴチャしていたけれど、その後自分で整理し直しおてみた。何とか分かった気がする。」

「まずはそんな感じでいいよ。では今日は理論仕事Wthから得られる理論熱効率ηthの説明をしよう。一般に熱効率¹⁶⁾ηとは、熱機関に与えられた熱量Qに対して仕事Wに変換される割合のことである。昨日説明した図1-7もう一度見てみようか?この図で燃焼行程➌では燃料を燃焼させた時にエンジンには熱量Q1が与えられる。そして排気行程➎で排気バルブから熱量Q2が排出される。したがって、この理論サイクル¹⁷⁾の熱効率は次式で求められる:

理論熱効率ηth=⊿Q(エンジンで仕事に使われる熱量)/Q1=(Q1-Q2)/Q1=1-Q2/Q1

ここで、ボイルーシャルルの法則¹⁸⁾、断熱変化時のポアソンの式¹⁹⁾を用いて、熱量Q1、Q2を求めて計算すると、実に綺麗な次式が得られる²⁰⁾:

ηth=1ーQ2/Q1=1ー1/ε⁽κ⁻¹⁾

ここで、εは圧縮比だったよね。そしてκは比熱比²¹⁾と呼ばれる物性値を表している。空気のκは1.40、ガソリン混合気のκはガソリン濃度・温度などによって異なるけれど、1.2~1.3程度の値となる。」

「これは熱効率が悪化する割合が、圧縮比εの(κ-1)乗の逆数ということ?訳が分からないけれど、ハカセのいうように形としては綺麗な数式だね。」

「まあ、この式の意味は置いといて、計算したした結果が図1-8の曲線群だ。」

 

図1-8 理論熱効率ηthの曲線群

出典☛「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p15-16 より加筆

 

「図中の空気サイクルとは空気成分だけという理論機関のサイクルという訳で実在しない。比熱比κは1.40である。実際の混合気は燃料空気サイクルと呼ばれ、比熱比κは絶対温度1,600Kで1.26程度となる²²⁾。」

「圧縮比εが大きい程、理論熱効率ηthは大きくなる。これは図1-7のPV線図をみれば、プラスの仕事が増えるからよく分かるよね。ただ、比熱比κが空気のκ=1.4に近づいても、やはり理論熱効率ηthは増加していくんだね。でもκが1.4に近づくってどういうことかな?」

「分かりにくいね。つまり、空気サイクルに近づくと混合気が薄くなるということだね。では具体的に理論熱効率ηthを線図から求めてみよう!先ず圧縮比εの値は、ノンターボエンジンで2012年頃の平均値が10.5程度。高圧縮比を好むマツダ社は14という高圧縮比を実現している。そこで、圧縮比ε=10、14とし比熱比κ=1.26(ガソリン混合気の燃焼可能温度での比熱比)、1.40(空気の比熱)という値を用いて計算をしてみた。

空気サイクルではε=10、14でηth=0.60、0.65であるのに対して、燃料空気サイクルではηth=0.45、0.50と熱効率はかなり落ちるんだ。でもこの値は理論熱効率なので、損失仕事、機械摩擦仕事が加わるとさらに下がることになる。よく熱効率40%達成という記事を見かけるけど、実は大変なことだということが分かるね。」

「なるほどね。熱機関の効率は、理論値でも45-50%程度なんだ。確かにそう考えると、熱効率40%というのは凄いね。」

「実はこの図1-4から、さらにいくつかのことが分かって来る:

① 圧縮比ε、比熱比κが大きいほど理論熱効率ηthが良くなる☛過剰空気で燃焼するディーゼル燃焼(ε、κは大きい)が、理論空燃比²³⁾のガソリンよりも熱効率が高くなる。

② 理論空燃比でのκ=1.26に対して、超希薄燃焼では空気が2倍程の希薄混合気だから比熱比も空気に近づく(κ=1.26➡1.3程度)ため、熱効率は高くなる。

「なるほどね。理論熱効率ηthだけでこれだけの説明ができるんだ。」

「今日はこのくらいにして、明日は実際の熱効率を表す正味熱効率の話しに入ろう!」

「了解。自分の部屋に戻って、今日話してもらった理論熱効率の話をまとめておくよ。」

夕方になっても、全く涼しい風も吹かない。まだまだ暑い日続くようだ。@2018.12.6記 2019.7.18、2019.11.26、2019.12.10修正

 

《参考文献および専門用語の解説》

16)熱効率☛熱機関の性能を表現する物理量であり、熱として投入されるエネルギーのうち、機械的な仕事(動力)や電気的なエネルギー(電力)などに変換される割合である。

ある熱機関に投入される熱が Q であるときに取り出される仕事をW=ηQと表した時の係数 η がこの熱機関の熱効率である。@Wikipedia

17)理論サイクル☛オットーサイクルとも言われる。図1-7において正の仕事だけ取り出し、さらに➌燃焼行程、➎排気工程を等容変化として考えた理論上の熱サイクル。

18)ボイル―シャルルの法則☛PV=RT;Rは気体定数@例えば「熱・統計力学」戸田盛和@岩波書店

19)ポアソンの式☛断熱変化時の圧力Pと体積Vの関係式。PV(ε;ε乗)=一定。@例えば「熱・統計力学」戸田盛和@岩波書店

20)たとえば「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;P15-16

21)比熱比☛κをカッパで表す。一般に物体の温度を1度上げるのに必要な熱量を熱容量といい、物体1grの熱容量を比熱と呼ぶ。気体の場合、体積を一定にした等容変化の比熱を定積比熱Cvといい、圧力を一定した定圧変化の比熱を定圧比熱Cpという。そして、CpとCvの比を比熱比κと呼び、κ=Cp/Cvで表される。ちなみに、窒素、酸素は共に1.4であるため、空気はκ=1.4となる。

22)比熱Cp、Cvは混合気(燃焼ガス)温度が上昇するに従い共に上昇する。ただし、Cp-Cvは一定であるため、CpとCvの差は小さくなり、κ=Cp/Cvは低下する。具体的には燃焼可能温度1600Kで1.26、燃焼温度2500Kで1.17となる。

23)理論空燃比☛完全燃焼に必要とする空気量と燃料との重量比のこと。ガソリン燃焼は14.7、つまり燃料1㎏に対して空気14.7kgを供給すると化学的には完全燃焼する。ちなみにディーゼル燃焼の理論空燃比は14.3程度となる。

 

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  • ➓おらが村にEVが走る⁉(EV編)
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