「そこで、三元触媒の登場となる。“三元触媒で使われる代表的な触媒金属は、“プラチナPt(白金)”、”ロジウムRh”、“パラジウムPd”であり、これらは金よりも高価な金属で、“白金族貴金属”と呼ばれている。そして、原子番号がそれぞれNO.78、45、46というように、気体と比較すると非常に大きな原子構造を持っている。ここがポイントだ。要するに、この3つの触媒金属は排気ガスのような気体に比べれば、非常に大きく、当然広い表面積を持っているということだ。有害成分である気体が引き寄せられるんだね。
この触媒金属は、非常に広い表面上に有害物質の分子をまず原子レベルに分解して表面に吸着させることができる。これが触媒機能の重要なところだ。たとえば、CO、HC、NOxを触媒金属の表面上に、原子レベルでそれぞれC、O、H、Nに分解して吸着させる。バラバラにできるんだね。
そして次に触媒表面付近の排ガス中に過剰な酸素がある場合、つまり空燃比が理論空燃比よりも大きい場合だね。その時は触媒表面近くを通過する過剰な酸素Oと反応して、炭素Cや水素Hは酸化されてしまうのだ。つまり触媒金属は、“酸化触媒”として機能し、二酸化炭素CO2、水蒸気H2Oが発生させることができる。
一方、空燃比が理論空燃比よりも小さい場合だね。この時は余った酸素Oはほとんどなく、分解された窒素原子Nは触媒上で仕方なくN原子同士が結合して窒素分子N2に還元されるというわけだ。この時触媒金属は、“還元触媒”として機能する。
ただし、この話はよくよく聞いてみると矛盾していることが分かる。つまり、理論空燃比よりも大きいと“酸化”はできるが“還元”はできない。理論空燃比よりも小さいと“還元”はできるが“酸化”はできない。したがって、理論空燃比では酸素の過不足がないため、還元はできても酸化はできないことを意味している。ただ,実際には現象にバラツキというものがあり、0-100%の世界ではない。
図2-3に空燃比制御に対するCO、HC、NOxの浄化率⁶⁾を示してある。空燃比に対して実際の三元触媒の浄化率は“ウィンドウ”と呼ばれる幅で急激に変化している。ウィンドウよりもグラフ左側にある、理論空燃比より小さい領域では、NOxの還元率は高いがCO、HCの酸化率は下がる。一方、グラフ右側にある、理論空燃比よりも高い領域では、NOxの還元率は低くなるが、CO、HCの酸化率は高い。つまり、ウィンドウを制度高く制御すれば、CO、HCの酸化率、NOxの還元率は90%以上に高めることができるのだ。現在では理論空燃比の制御精度向上、モノリス構造の改良、白金族塗布の改良を含めて95%以上の浄化率となってきたと言われている。
したがって、三元触媒を使えば理論空燃比制御により排ガス浄化が簡単にできてしまう。あとは排気ガス規制値を見ながら、どれだけ理論空燃比制御をして浄化率をあげるか、どれだけリッチ燃焼をして出力を上げるか、どれだけリーン燃焼にして燃費を良くしたりするか が各社の腕の見せ所だ。」
「燃費・出力を良くしながら、如何に空燃比制御をして排気ガス規制値を順守していくかということ?」
「その通りだね。ところが、排気ガス規制値が年々厳しくなるにつれて、理論空燃比制御域のエンジン運転域で広がってきており、全域近くなってきた。空燃比制御での燃費向上はこれ以上望めななくなってきたんだ。そこで登場してきたのが、ドイツで生まれた”ダウンサイジング”ターボ”というコンセプトだ。燃費向上策としては起死回生の一手となった。純くんの疑問点の一つだよね。」
ということで、今日の談義はお開きにした。博士は明日の資料を集めるために自分の部屋に戻ることにした。蝉がうるさく庭先で鳴いるのが聞こえてきた。夏真っ盛りである。@2018.12.10記、2019.7.21修正
《参考文献》
6)「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p103
出典:「自動車用ガソリンエンジン」中島泰夫@山海堂;p103 より加筆