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第15話 超希薄燃焼技術➀

「さてに昨日は、ガソリンエンジンの燃費向上に対して、2L・NAエンジン車≒1.4L・D/Sターボエンジン車となっているという話をしたね。ただし、ガソリンエンジンの熱効率向上の技術が止まっているということではなく、普通のNAエンジン車の熱効率が向上しているから、D/Sコンセプトに劣ることがないということなんだ。

少なくとも日本のガソリン燃焼技術は、これまで正味熱効率で0.1%の数字を着実に積み上げてきた。図2-9はここ10年の熱効率向上の道をドイツメーカーの道(迷走?)と合わせてまとめている²³⁾。エンジン技術者の努力で正味熱効率ηeは、2012年頃には37%、2016年頃には何と40%まで向上させてきた。以前話をした1991年アストラのエンジン正味最大熱効率は34%だから、それに比べると6%も積み上げられてきたことになる。図1-4で説明した理論熱効率ηthでさえも、比熱比1.26での燃料空気サイクルの値は、圧縮比ε=14でやっとηth=50%だったよね。正味熱効率ηeになれば、損失仕事、機械摩擦仕事などで50%を下回るはずだ。だから正味熱効率ηe=40%は、凄い値なんだ。」

 

図2-9 ガソリン超希薄燃焼への道

出典☛日経Automotive(2016年7月号)@日経BP社;p42 より加筆

 

「でも1994年34%☛2016年40%と6%向上するのに、22年もかかるということだね。」

「そうだね。だんだん限界に近づいているからね。実用化エンジンの熱効率向上は、これからはもっとかかるという気がするね。以前説明した燃料空気サイクル²⁴⁾の理論熱効率ηth=50%(ε=14)だから、いくら理論仕事を増やして損失仕事、機械摩擦仕事を減らしても、この50%は超えられないね。今40%ということは、理論熱効率にかなり近づいているということなんだ。」

「これから損失仕事、機械摩擦仕事を減らしたとしても、ゼロにはできないから、最大45%ぐらいということかな?」

「そうだね。理論空燃比燃焼では45%程度が限界かもしれないけれど、もう一つ方法がある。理論空燃比を気にせずに空気を一杯吸って、希薄燃焼にするということだ。要するに燃料空気サイクルを空気サイクル²⁴⁾に近づけるということだね。これにより比熱比κを上げることが出来、理論熱効率ηthのベースを50%から一気に65%へ近づけることができる。例えば簡単な計算で、ηth=50%がηe=40%まで落ちるのであれば、同じ損失割合と考えて、超希薄燃焼の熱効率ηe=65×40/50=52%となる。50%は夢ではない!というのが超希薄燃焼技術の研究に携わる方々の思いだろうと想像する。ただし、三元触媒が使えない。この致命的欠点はディーゼルと同じだ。何らかの手段を講じなければならない。」

「だんだんとディーゼル燃焼に近くならざるを得ないということか?」

「そうだね。もうその方向しか熱効率向上の道はないということかな?ガソリン超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)技術の研究は日本では戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と呼ばれた国家プロジェクトで推進されてきた。SIPエンジン²⁷⁾を使って各担当大学がいくつかのテーマに分かれて研究しているようだ。ガソリンエンジンでは、2014年時点で最高と言われる正味熱効率40%を2018年までに正味熱効率50%を目標としてスタートした。そして、最近のSIPエンジンの報告によれば、図2-9に示したけれど、中速高負荷域のある1点で正味熱効率51.5%を達成²⁸⁾したようだ。」

「超希薄にすると何故熱効率が良くなるのか、もう一度整理するとどうなるのかな?少々混乱して分からなくなってきたから、10の疑問点の4番目にも挙げたんだ。」

「では整理してみよう!超希薄燃焼にはディーゼル燃焼と当然同じ利点もあるが不利な点もある。利点としては空気が多くなる分だけ比熱比κを大きくできるよね。さらに、燃料濃度は薄いこともあって、プレイグ、ノッキングは起き難くなる。その分だけ圧縮比εも大きくできるという訳だ。結果的には理論熱効率ηthが大きくできるということは6話でも話したよね。それに加えて、損失仕事WLが小さくできる:

1)過剰空気による混合気の比熱が高い☛冷却損失仕事WL1が小さい

2)火炎伝播ではなく、一気に燃焼する☛時間損失仕事WL2が小さい

3)希薄混合気を形成するための吸気量大☛ポンプ損失仕事WL4が小さい」

「なるほどね。結局燃焼がディーゼル燃焼に近くなってくるので、熱効率が良くなるということか?でもそうは簡単にできないよね。」ということで話が長くなりそうなので、一旦休憩を挟んでから、課題と実際にSIPエンジン行った手法について、話すことにした。@2018.12.11記、2019.7.23、2019.12.7修正

 

《参考文献》

23)日経Automotive(2016年7月号)@日経BP社24;p42

24)「第6話理論熱効率の話」を参照(復習)

25)例えば理論空燃比の2倍程度として理論熱効率ηthを計算する。λ(空気過剰率)=2、比熱比κ=1.35、圧縮比ε=14、18とすれば、理論熱効率ηthはそれぞれηth=0.60(ε=14)、ηth=0.64(ε=18)となる。

26)SIP☛Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Programの略。総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト。内閣府に設置され、政策統括官が事務局を担っている。@Wikipedia

27)SIPエンジン☛SIPの中で革新的燃焼技術の研究に使われている単筒ガソリンエンジン

28)「SIP(革新的燃焼技術)が脅威のエンジン熱効率を達成」Park blog@2019.2.4

 

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    • 第11話 化学反応式
    • 第12話 三元触媒のしくみ
    • 第13話 理論空燃比制御
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    • 第15話 超希薄燃焼技術➀
    • 第16話 超希薄燃焼技術➁
    • 第17話 クリーンディーゼル
    • 第18話 VW社不正問題➀
    • 第19話 VW社不正問題➁
  • 第3章 日本で花開いたHV!
  • あとがき(GV、HV編)

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    • あとがき(GV、HV編)
  • ➓おらが村にEVが走る⁉(EV編)
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