くわな科学技研
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  • ❷代表者はどんな人?
  • ❸グリーン社会をめざして!
  • ❹何をやっているのかな?
  • ❺講演会のテーマは?
  • ❻どんなセミナー教育?
  • ❼セミナー教育の具体的概要とは?
  • ❽お手続きの流れ
  • ❾おらが村にEVが走る⁉(GV、HV編)
  • ➓おらが村にEVが走る⁉(EV編)
  • ⓫雑学談話「電気・モーターのはなし」

第17話 お金がかかるクリーンディーゼル

翌日朝食を済ませると、早速クルマ談義が始まった。

「これまではガソリンエンジンの燃焼の話しをしてきたけれど、今日はディーゼル燃焼について話を進めよう。第8話でディーゼル熱効率の話をしたけれど、覚えているかな?」

「えーと、ディーゼルエンジンの圧縮比は、ε=16~18。ガソリンエンジンに比べると高かくなる。圧縮行程で高圧縮された高温空気中に、燃料が高圧噴射される。高(こう)が3つ続くんだよね。そして噴霧に火が着いて燃焼行程へ続く、ということかな?」

「よく覚えていたね。ディーゼルの燃焼形態はガソリンの乱流火炎伝播(第5話)と異なる。インジェクターノズル部の多噴孔(6~10ヶ所程度)から高圧噴射されて燃料噴霧をつくる。その噴霧の外側から、順に高温空気と拡散されて(混ざって)混合気をつくる。その混合気が高温空気で一気に着火して燃焼すると、燃焼は噴霧の中へと拡がっていく。ガソリン燃焼は予め空気と混合気をつくって燃焼するので、予混合燃焼と言われている。それに対して、ディーゼル燃焼はバーナーと同じように炎の外から必要な酸素が噴霧との拡散によって混合気を作り燃焼していくので、拡散燃焼と呼ばれている。そのため、どうしても過剰の空気量がいるので、比熱比κは大きく、圧縮着火するため圧縮比εも大きくなってしまう。それで理論熱効率ηthは大きくなるということだ。

過剰空気ということもあって、燃焼ガスの熱容量は大きく冷却損失仕事WL1は小さくなる。さらに、ディーゼルエンジンには吸気スロットルが必要ないので、絞り損失は少なくポンプ損失仕事WL4が小さい。その結果、図1-8で説明したように全域にわたって正味熱効率はガソリンに対してが高い。」

「単純に圧縮点火と火花点火の違いと思ってたけれど、燃焼の形態も随分違うんだね。」

「軽油は引火点(45~80℃)が高いため(第4話)、ガソリン(引火点-46~-35℃)と違って混合気をつくるのに苦労する。拡散空気と混ざっても、噴霧外部の混合気は中々一様にならず、所々高温燃焼したり不完全燃焼したりして燃焼形態は場所によって異なる。そのため、有害成分であるNOx、PM³¹⁾(黒煙)を多く発生させてしまう。この大量のNOx、PMのお蔭でディーゼル車は臭い、汚い、うるさいというレッテルを貼られてしまった。ディーゼル燃焼は空気過剰燃焼であるから、CO、HCはほとんど酸化されて量的には極めて少ない。ただ、2大有害ガス成分となったNOxとPMの発生が多く、これを如何に抑えるかが、ディーゼル排気ガス浄化の大きな課題になる。」

「ガソリンエンジンは有害成分CO、HC、NOxを三元触媒システムで酸化還元できたけれど、ディーゼルはできないんだったね?でもPMはコモンレール³²⁾で高圧噴射して噴霧を微粒化をすれば、ほとんどなくなると聞いていたけれど?NOxはかなり難しそうだね。」

「実はディーゼル燃焼には、PMとNOxのトレードオフというややこしい関係がある。噴霧を微粒化して燃焼を活発させると、高温燃焼となってPMは少なくなるが、NOxを大量に発生させてしまう。したがって、NOxを下げるには低温燃焼(16話で話したが、2000K以下)に近づけなくてはならない。ただ、そうすると燃焼が不活発となってPMが発生してしまう。PM、NOxの同時低減を狙って、先ずは高圧コモンレールでPMを一気に減少させ、インタークーラー³³⁾、クールドEGR³⁴⁾³⁵⁾で吸気温度を下げて低温燃焼に近づけてNOxの発生を抑えるというのが常套手段にようだ。ところが、年々排気ガス規制が厳しくなり、複雑な後処理システムを追加することになった。これがクリーンディーゼルと言われるディーゼルエンジンだ。クリーンディーゼルの全容を図2-12に示す。」

図2-12 クリーンディーゼル

 

「この図で➊高圧コモンレールは必須アイテムだ。過給機、インタークーラー、クールドEGRも標準装備となっている。触媒システムは3つから構成される:

➋酸化触媒☛三元触媒と同じ構造でHC、COなどの酸化だけ行う。

➌DPF³⁶⁾☛高圧コモンレールでも発生してしまったPMを内部でトラップして排気温度で燃焼(酸化)させるというセラミックフィールター。

➍NOx触媒☛主にLNTとSCRの2種類³⁷⁾のタイプがあり、NOxをN2に還元する

図2-12を見て、クリーンディーゼルは複雑なエンジンシステムとなり、如何にもお金がかかりそうなことが想像できるだろう?」

「以前はスッキリしていたディーゼルエンジンが物凄いことになっているね。」

「昔から、技術はSimple is best!だと思うよ。私が乗用車用としてディーゼルエンジンを見放し始めたのは、コモンレール単独でNOx削減ができないからだ。コモンレールでは、デジタル噴射率制御と言って燃料噴射率のパターン制御が多少ともできるが、NOxを直接消すようなことはできない。これは辛いね。」

燃費はいいが、高価格になってしまったクリーンディーゼル車、燃費の有意差が大排気量NAエンジン車と変わらなくなってきたD/Sターボ車。共に更なる燃費低減を狙ったエンジンの解なのだが、ここに来て世の中に少々合わなくなってきたという感じがするね。

実はそんな背景の中で、世界を大きく揺るがす大事件は起きた。2015年9月18日、アメリカ合衆国環境保護庁であるEPA³⁸⁾は、VWグループに対して、大気汚染防止法の違反通知を発行してしまった。それもフランクフルトモーターショーの真最中に、その事件は報道された。純くんの10の疑問の2番目に、何故VW社は排気ガス不正問題起こしたのか、というのがあったね。ディーゼルエンジンの排気ガス浄化が難しいことは理解してくれたと思う。問題はクリーンディーゼルの複雑さ故に問題が起きたと私は思う。」ということで最後にVW社が起こした不正問題について技術的な内容に触れることにする。これはディーゼル乗用車が今の世の中では限界に近づいていることを示す大事件だとハカセは思っている。@2018.12.13記、2019.7.23、2019.12.4修正

 

《参考文献および専門用語の解説》

31)PM☛Particulate Matterの略。ディーゼルのPMはの主成分は黒煙(スス)からできている。一般には大気中に浮遊している固体または液体の微細な粒子状物質の総称。中国で問題になっているPM2.5は分布の中心が2.5μmだけれども、ディーゼルのPMの粒径は市場では、20~60nm(0.020~0.060μm)の大きさなのでナノ粒子と呼ばれている。

32)「私のコモンレール開発物語」伊藤昇平;JSAE Engine Review Vol.6 No.4. 2016,p19@自動車技術会

33)インタークーラー☛吸入空気を走行風により冷却する熱交換器。過給機付きエンジンにはよく使われる。

34)EGR☛Exhaust Gas Recirculationの略。排気ガスの一部を吸気管に還流させるシステムもしくはその還流排気ガスのこと。吸気管前にはEGRバルブがついており、これでEGR量を制御。

35)クールドEGR☛EGRバルブ前に冷却水でEGR(ガス)を冷やす熱交換器。

➊全域における効果

❏吸入空気に排気ガス(CO2、H2O)が混入されることで、熱容量が増加し熱損失が低減して燃費が向上

❏クールドEGRにより、NOx焼温度が下がりNOxが低減

➋低負荷、高負荷域の更なる効果

❏低負荷域☛EGRにより酸素量が低下し、スロットル開方向にすることでポンピング損失が低減し、燃費が向上

❏高負荷域☛クールドEGRで筒内温度が下がり、プレイグニッション、ノッキングを抑制して出力/トルクが向上

36)DPF☛Diesel Particulate Filterの略。ディーゼル-エンジンの排気ガス中の有害物質を含む微粒子を除去するフィルターのことをいう。微粒子はフィルター内で酸化する。その方法は連続再生のタイプとコモンレールの後噴射で排気温度を上げて酸化させる強制再生のタイプがある。

37)LNT➡Lean NOx Trap(NOxをリーン時触媒に吸蔵して、リッチ時N2に還元)、SCR➡Selective Catalytic Reduction(噴射した尿素水を加水分解させて発生したアンモニアでN2に還元)。LNTに対してSCRはシステムが複雑で価格的に不利ではあるが、NOx還元率は高い。

38)EPA☛United States Environmental Protection Agencyの略;アメリカ合衆国環境保護庁

 

  • まえがき
  • 第1章 クルマ談義の始まり!
  • 第2章 GV、DVは消えるの?
    • 第11話 化学反応式
    • 第12話 三元触媒のしくみ
    • 第13話 理論空燃比制御
    • 第14話 Downsizing-Turbo
    • 第15話 超希薄燃焼技術➀
    • 第16話 超希薄燃焼技術➁
    • 第17話 クリーンディーゼル
    • 第18話 VW社不正問題➀
    • 第19話 VW社不正問題➁
  • 第3章 日本で花開いたHV!
  • あとがき(GV、HV編)

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    • 第1章 クルマ談義の始まり!
      • 第1話 はじめに
      • 第2話 10の疑問点
      • 第3話 EV化は進むのか
      • 第4話 燃焼サイクル
      • 第5話 燃焼室の圧力
      • 第6話 理論熱効率
      • 第7話 正味熱効率
      • 第8話 ディーゼル熱効率
      • 第9話 平均有効圧力
      • 第10話 燃料消費率等高線
    • 第2章 GV、DVは消えるの?
      • 第11話 化学反応式
      • 第12話 三元触媒のしくみ
      • 第13話 理論空燃比制御
      • 第14話 Downsizing-Turbo
      • 第15話 超希薄燃焼技術➀
      • 第16話 超希薄燃焼技術➁
      • 第17話 クリーンディーゼル
      • 第18話 VW社不正問題➀
      • 第19話 VW社不正問題➁
    • 第3章 日本で花開いたHV!
      • 第20話 歴史を紐解く
      • 第21話 3つのHV
      • 第22話 Tank-to-Wheel効率
      • 第23話 HVの走行パターン
      • 第24話 HVの燃費モデル
      • 第25話 各Tank-to-Wheel効率
      • 第26話 シリーズHV
      • 第27話 なぜ日本だけ?
    • あとがき(GV、HV編)
  • ➓おらが村にEVが走る⁉(EV編)
    • 第1章 パリ協定は燃費規制❔
    • 第2章 クルマのCO2は下った❔
    • 第3章 EVに賭けるしかない❔
    • 第4章 世界が動き出した❕
  • ⓫雑学談話「電気・モーターのはなし」
    • はじめに
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      • 1-4 電力と電力量
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