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第26話 シリーズHVは最高効率?

純一郎が通うプールは、自宅から歩いて3分ぐらいのところにある市民プールだ。近くて入場料も安いので、本人は気に入って重宝しているようだ。夏休み中、中学生の遊び場としては最適かもしれない。クルマ談義は一日おいて再開された。

「純くん、GV~PHVまでのTank-to-Wheelのトータル効率ηTは理解できたかな?」

「あの図3-8は凄いね。全体が数字で見渡せる感じがして面白くなってきたよ。ところで、HVの効率ηTを求める式で、後で気が付いたことがある:

ηGV40{=0.22}<ηHV40{=0.22×A/100+0.36×B/100}

この式から言えることは、Bの割合が大きければ大きいほど、つまりエンジン発電割合Bが大きいほど、HVの効率ηHV40は大きくなるということだね。極端な例として、A=0(%)、B=100(%)の時、効率ηTは最大となるよね。この場合はシリーズHVだ。HV40と比較すると

ηT(シリーズHV40)=0.36×100/100=0.36

これは当然ηHV40=0.29より大きいし、ηHV50=0.365と同等となる。

もしこれが間違っていないならば、どのメーカーもシリーズHVの路線に走ることになるけれど、現実はそうなっていない。唯一、日産のノートe-POWERだけがそのシリーズHVという状況だよね。何故他社もシリーズHVにしないのかな?」

 

図3-9 日産ノートe-POWERの概要

出典☛日産ノート「e-POWER」ホームページ より加筆

 

「疑問はもっともだね。ではまず事実確認からしてみよう。図3-9にノートe-POWERの概略²⁷⁾を示した。モーターなどの駆動ユニットはおそらくコストを考えて中型車のリーフ用を小型車ノートに転用してある。また、発電用エンジンはノートのガソリンエンジンをそのまま転用している。これは海外生産の小型エンジンで比較的に安価に仕上げたかったのだろう。独自の設計と言えば、LiB²⁸⁾だけだろうね。トータル設計の中で、コスト、設計スペースのしわ寄せが電池に来てしまった。結果的にはリーフ30kWhの電池容量に対して、1/20となる1.5kWhのLiBになっている。

一見これまでのHVとしてはバランスが悪い用に見えた。ところが、駆動ユニットはリーフ(車重1,800kg)用を転用したものだから、加速トルクは素晴らしい。お蔭で減速時の回生ブレーキは強すぎるくらい、よく効く。そんなシリーズHVが出来上がったしまったということだ。結果的には売れに売れて、2018年度登録者販売台数第1位になったね。」

「でも思ったより燃費が良くないという評判だよ。」

「最近のトヨタプリウス(車重1,390kg)、アクア(車重1,100kg)と日産ノートe-POWER(車重1,220kg)のe燃費(㎞/L)を調べてみようか?これまでのデータは2015年、2016年だったので、今回は2017年、2018年という最新のハイブリッド部門e燃費Best10のデータ²⁹⁾³⁰⁾を使ってみよう:

プリウス☛24.4(2017年)、24.5(2018年)・・・平均e燃費=24.4(㎞/L)

アクア ☛23.5(2017年)、23.8(2018年)・・・平均e燃費=23.6(㎞/L)

ノート ☛19.2(2017年)、19-20(HV部門でBest10入りせず)・・・平均e燃費=19.5(㎞/L)

これによれば、プリウスの効率ηTは

❏ηT(プリウス)=0.22×24.4/16.0=0.335

となって、シリーズHVの0.36にかなり近づいているということだ。一方、ノートe-POWERの平均e燃費は、平均HV燃費21(㎞/L)よりも10%弱悪い。さらにプリウス、アクアの燃費に比べれば、何と20%程度も悪い。一体どういうことなんだろうね?推定できる?」

「先ほどのHVの効率式が間違っているのかな?」

「では考えてみようね。もう一度、HVの効率式を書くと、

ηHV40=(0.15+0.40)/2{ηe平均}×0.80×A/100+0.40{ηe最大}×0.90×B/100

   =0.22×50/100+0.36×50/100

HV40では割合A=B=50(%)としたよね。ただし、この時も何か実感とは合わなかった。実際HVに乗っていると、エンジンだけの運転というのは殆ど感じない程度なんだ。ところが、割合Aは50%もあるという。そこで、エンジン運転割合を例えばA=10%と低くしてエンジン発電割合をB=90%と仮定すると、その時のエンジン最高熱効率ηeMAX³¹⁾は、

❏HV平均(2015-16年)☛ηeMAX=0.334(33.4%)

❏プリウス(2017-18年)☛ηeMAX=0.387(38.7%)

つまり、エンジン発電時の正味熱効率は平均的に40%で発電しているのではなくて、実際にはHV平均では33%程度だということが言える。ところが、プリウスでは正味熱効率40%付近をキープして、39%程度で発電制御していることが分かる。これは凄いことだね。

一方、ノートe-POWERの場合では、e-POWERの効率ηTを2015-16年のHV平均値からの燃費で推定算出³²⁾すると、ηT(ノート)=0.27となる。したがって、発電制御時のエンジン熱効率ηeMAXは、A=0%、B=100%として計算すると、

❏e-POWER☛ηeMAX=0.30(30%)

HVモデルで仮定した発電時正味熱効率は40%ではなく、実際には平均的に30%にしか制御できなかったというのが事実のようだ。まあ、プリウスが凄いこともあるけれどね。残念ながら、このエンジンはHV用に開発されたのではなくて、あくまで転用品だ。ただし、組み合わせ設計で開発したe-POWERは燃費こそ20㎞/Lに行かないが、強い加速感、大きな回生ブレーキという武器を偶然にも手に入れた。これでこのクルマの特徴を全面に出せたため、売れたんだね。結果的には小型シリーズHVには中型用の大きなモータユニットが必要ということだ。エンジントルクのアシストがないからね。ただ問題はシリーズHVの宿命で発電時には常に最大熱効率域、つまり全負荷に近いところでエンジン運転をしなければならない。これって、ユーザーにとってはアクセルぺダルに関係なく回るので、うるさいし違和感があるよね。だから、中型車以上に展開するのはなかなか難しいと思うよ。」

「何が当たるか、分からないね。」シリーズHVへの疑問は解消されたようなので、今日は終わりにした。明日は、HV40が何故日本、そして北米で受け入れられたのか、何故欧州で力を発揮できないのかという、純一郎の5番目の疑問について談義を進めようと思った。いよいよ夏本番である。@2019.7.29記、2019.12.27修正

 

《参考文献および専門用語の解説》

27)日産ノート「e-POWER」ホームページ

28)LiB☛リチウムイオン二次電池(Lithium-ion rechargeable Battery)は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池である。@Wikipedia

29)「e燃費アワード2017-2018を発表」株式会社イード@2018.3.14

30)「e燃費アワード2018-2019を発表」株式会社イード@2019.3.12

31)❏HV平均☛ηHV40=(0.15+ηeMAX)/2×0.8×0.1+ηeMAX×0.9×0.9=0.29

       ηeMAX={0.29-0.15/2×0.8×0.1}/(1/2×0.8×0.1+0.9×0.9)=0.334

  ❏プリウス☛ηeMAX={24.4/16×0.22-0.15/2×0.8×0.1}/(1/2×0.8×0.1+0.9×0.9)=0.387

32)❏e-POWER☛ηeMAX={19.5/21.0 ×0.29}/0.9=0.30

 

  • まえがき
  • 第1章 クルマ談義の始まり!
  • 第2章 GV、DVは消えるの?
  • 第3章 日本で花開いたHV!
    • 第20話 歴史を紐解く
    • 第21話 3つのHV
    • 第22話 Tank-to-Wheel効率
    • 第23話 HVの走行パターン
    • 第24話 HVの燃費モデル
    • 第25話 各Tank-to-Wheel効率
    • 第26話 シリーズHV
    • 第27話 なぜ日本だけ?
  • あとがき(GV、HV編)

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  • ➓おらが村にEVが走る⁉(EV編)
    • 第1章 パリ協定は燃費規制❔
    • 第2章 クルマのCO2は下った❔
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