EVの三悪と言われている価格、航続距離、充電時間に大きく影響しているのが主要電池であるLiBということである。価格についてはCATLは50$/kWhの水準が視野に入ってきそうだと話した。では性能の方はどうであろうか?これは航続距離、充電時間に大きく影響して来る。CATLのロードマップの中で基本路線は、正極はハイNi化、負極は黒鉛とシリコンSi、酸化シリコンSiOxの複合化であることを述べた。そして、これはどの世界の電池メーカーも同じ路線であることを説明した。
図22には現在議論されているLiB進化への取り組み内容がまとめてある。図中のグラフに示してあるように、ハイNi化したNMC811はNMC111に比較して正極のエネルギー密度が1.2~1.3倍増加させている¹⁾。また、レアメタルであるコバルト量を下げられることから正極材のコストを下げられる。したがって生産されるLiBの正極材はハイNi化されたNMC811が今後多用されると言われている。
また、負極では黒鉛とSi・SiOxの混合複合化により高容量密度化を図ろうとしている。理論容量密度が黒鉛372mAh/gに比べてSiは4200mAh/gと11倍にも及ぶ。この複合材料を5%程度混ぜて導電助剤として負極材に適用すると、容量密度を1.1~1.3倍の400~500mAh/gまで増加させることが出来るという¹⁾。図中の写真例で分かるように、粒状の導電助剤では黒鉛粒子を結ぶことが難しいが、繊維状の導電助剤にすることで粒子が離れていても接点を確保しやすくなる。これにより、高密度化が出来るという訳だ。さらに、両極の高容量密度化により高電圧化を進められ、LiBの公称電圧3.6-3.7Vから4.2V程度まで上げることができる。ただし、高電圧化に伴い正極での酸化作用が強まり、電解液が正極と反応して分解しやすくなる。4.5V以上になると分解してガス化してしまうため(次に説明する図24参照)、現状では作動電圧の上限は安全性、サイクル寿命を考慮して4.1~4.2Vとしている。以上のような取り組みにより、現在のLiBは性能という面でも新たな進化の道を歩み始めている。
出典☛日経Automotive(2018年9月号)@日経BP社;p72 より加筆
ポストLiBは安全性、性能、そして価格で全固体電池か❔
一方、LiBの最大の懸念点の一つに安全性の問題がある。LiBそのものに機械的な衝撃が与えられると、発火・爆発に至ることがあるというのだ。結果的にEVの発火事故²⁾につながるという結果に至っている。コスト重視で安全性を軽視した設計をして、十分な安全評価テストをしなければ、LiBによる重大事故につながる可能性がある。元々LiBとはそういった危険性をはらんだ電池なのだ。したがって、LiBの電池パックはフロア下の頑丈な車体フレームに守られた形(図8、図11)で搭載されているのが現実の姿である。
では一体何が危険なのか?詳しくは図23にLiB熱暴走のメカニズムを示した。元々機械的衝撃により内部短絡すると、正極が分解して酸素を電解液に放出してしまう。この酸素により、電解液の酸化還元反応が生じて内部温度が上昇する。その結果、セパレーターが溶解して、両極が完全に接触、電池温度が急上昇して溶媒液が気化する。その気化成分に発火して爆発に至るというものだ。両極の化学反応は、高容量化を図ればさらにリスクは増す。そこで、中間に存在する有機電解液が発火しないものにすればいい。具体的には有機電解液を燃えない水系電解液³⁾にするか、電解液から図23に示した揮発成分がない固体電解質した全固体電池にするかである。
最近の研究では、全固体電池は有機電解液と比較するとLiイオン伝導率が2.5倍上昇。エネルギー密度も3倍程度増加する材料が発見されてきた(詳しくは次の3-9で説明)。また、EV用LiBとして安全性を飛躍的に向上できる全固体電池は、構造上両極の内部短絡にさほど気を使わなくてよく、低価格化が期待できる。固体電解質がセパレーターの役目をしているからだ。さらに、両極に固体電解質をプレスする形で量産性にも優れている。安全性を懸念して開発を始めた全固体電池は、性能向上・価格低減にも大きな効果があるということで、全てのEV用電池メーカー、電池研究所がその開発にしのぎを削っているのが現状だ。@2021.2.22記
出典☛「自動車用リチウムイオン電池」金村聖志@日刊工業新聞;P40 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)日経Automotive(2018年9月号)@日経BP社;p75
2)例えば、「中国・韓国製リチウムイオン電池に問題か、EVの出火相次ぐ」世界のニュース トトメス5世@2018.10.7、「世界で相次ぐEVリコール、電池は本当に火災事故の原因か」日経クロステック@2020.10.23
3)「東芝が燃えないLIBを開発、弱点を克服で電解液を水系に」日経クロステック@2021.1.20