2030年の予想保有台数は2013年と同数の2.21億台
先ずは、欧州における目標平均CO2を算出することにする。これに必要なデータは、
1)欧州全体が保有するクルマの総台数(2013年、2030年)とその内訳
2)2013年全体平均実燃費(㎞/L)もしくは全体の平均実CO2(gr/㎞)
初めに1)の2013年に欧州が保有していたクルマの総台数を推定をしてみよう。
では一体2013年に保有したクルマの総台数は、何年まで遡れなければならないのだろうか?2乗用車の耐久財の使用年度分布推定という論文¹⁾²⁾において、2008年末での欧州12か国平均15.2年とされている。つまり、欧州の場合はクルマの寿命を15年として1999年~2013年の販売台数を総和することで、2013年に欧州が保有したクルマの総台数と考えた。ちなみに、日本は13.2年、米国は15.3年となっている。
さて、JATOの統計的データによれば、図3に示した欧州乗用車販売台数の推移から欧州保有台数@2013年は次のように算出される。なお図から分かるように、2008年のリーマンショックの影響で年々販売台数は減少し続けた:
❏欧州乗用車保有台数@2013年=Σ1999年~2013年=2.21億台;平均販売台数1,473万台/年
出典☛JATOから提供されたデータを基に当技研が作成
では1)の2030年の保有台数はどうであろうか?図4にやはり同じくJATOのデータから2010年~2019年までの乗用車販売台数推移を示した。2014年からはやっとリーマンショックの影響からの立ち直りをみせて、2014年から2017年までは増加傾向にある。2017年~2019年までは1,560万台前後で、1999年~2007年の平均値1,550万台/年と同程度の値に落ち着いている。したがって、2018年~2030年までは1,560万台で飽和していると考え、2016年~2030年の15年間の新車販売台数を次のように仮定した:
1)2016年~2017年の実績総和=1,509+1,557=3,066万台
2)2018年~2030年は年1,560万台=1,560✖13=20,280万台
したがって、2016年~2030年の総和=3,066+20,280=2億3,346万台≒2.33億台。つまり、
❏2030年保有台数/2013年保有台数=2.33/2.21=1.054≒1.05
となり、5%程度増加したことになる。ただし、先回のリーマンショック影響で販売台数が落ち込んだと同様、今回の2020年からのコロナ禍で販売台数がしばらく伸びないことも予想される。したがって、ここは2030年保有台数と2013年保有台数はほぼ同程度になると仮定してもいいと考えた:
❏欧州乗用車保有台数@2030年=Σ2016-2030年=Σ1999-2013年=2.21億台@1,470万台/年
出典☛「2019年欧州新車販売台数レポート」JATO@2020.2.27
2013年に保有したクルマ平均CO2=156gr/㎞@モード燃費
次に、2013年に欧州が保有していたクルマの平均燃費について検討した。そこで、データをいろいろと探した結果、図4に示した「欧州の乗用車におけるCO2排出値の変遷」というグラフの数値を使うことにした³⁾。図4左には各車のCO2推移データを示した。これは当時のNEDCモード⁴⁾による欧州全体の平均CO2(加重平均値)をまとめたものだ。各規制値に対してガソリン車(GV;赤線)、ディーゼル車(DV;緑線)、全体(青線)のCO2データが示されている。この図から2013年には既にGV、DV共に2015年規制値の130gr/㎞はクリアしていることが分かる。
出典☛「WLTPやRDE試験を導入へ」日経Automotive2016年3月号;P44 より加筆
目標平均CO2=184➡129gr/㎞@2030年
ここでは図5の全体CO2データをモードCO2データとして使用することにする。クルマの寿命を15年と考えたから、1999年から2013年のCO2データが必要となる。1999年のデータは、図4から直線補間して推定した175gr/㎞を用いた。その値を含めて2013年まで平均した結果、
❏平均モードCO2@1999-2013年=156.3gr/㎞
このままでもいいのであるが、後で米国、日本とのCO2量も比較したく、実燃費に換算する換算係数をここで適用する。欧州実燃費の換算係数⁵⁾=実CO2/モードCO2=1/0.85を用いることにする:
❏実平均CO2@1999-2013年=平均CO2@2013年=156.3/0.85=183.88≒184gr/㎞
削減目標は各地域同一の「2013年比でCO2を2030年に30%削減」ということにしたので、2030年2.6億台に対する目標平均CO2は次のように計算される:
❏目標平均CO2@2030年
=(1-削減割合%)✖平均CO2@2013年✖保有台数@2013年/保有台数@2030年
=(1-0.30)✖184✖2.21/2.21=128.8≒129gr/km
欧州では2013年2.6億台のクルマの平均CO2「184gr/㎞」をベースにすると、2030年には同数の保有台数2.6億台における目標平均CO2は「129gr/㎞」となった。この結果を図6に示す。果たしてこれまでの延長のクルマ路線で目標平均CO2「129gr/㎞」は達成できるのか、このあとの第3話で説明する。@2021.1.9記、2021.2.26修正
《参考文献および専門用語の解説》
1)「クルマの寿命は20年が限界?」くるまいこドットコム
2)「耐久財の使用年数分布の国際比較」小口正弘ら@2012年3月
3)「2017年に大きく変わる排気ガス規制」日経Automotive2016年3月号@日経BP社;p44
4)NEDC☛New European Driving Cycleの略。欧州の燃費試験の走行モード。
5)欧州実CO2(gr/㎞)=NEDCモードCO2/(0.75×1.15)=NEDCモード/0.86。一方、e燃費Best10(2020年4月)の実CO2=WLTCモードCO2/0.84。したがって、欧州では実CO2=WLTCモードCO2/0.85とする。「0.75」は日本における実CO2=モードCO2/0.75、NEDCモードCO2=JC08モードCO2/1.15。ここで「1.15」の意味は欧州は高速走行が多く、実用域でエンジン回転数が低いため、走行モードとしては燃費良化の方向走行する☛参考「NEDCモードと10・15/JC08モード」BMW@RAKTEN BLOG(2012.3.8)