現行の燃費改善では、2030年CO2低減率は18%!
さて2030年に保有したクルマ2.41億台の平均CO2については、図10から直線補間して推定した。欧州と同じようにクルマの寿命を15年と考えて、2030年に保有されるクルマは2016年~2030年に販売されたクルマの集団となる。2017年~2030年までのデータは直線補間して平均値を求めた:
❏平均燃費@2016-2030年=28.8MPG=28.8✖0.425≒12.2㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.2×0.70¹⁾≒8.54㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/8.54=271.6≒271gr/㎞>231gr/㎞
第1話で定義した削減割合は
❏削減割合=1-平均CO2@2030年/平均CO2@2013年✖保有台数@2030年/保有台数@2013年
=1-271/346✖2.41/2.30=17.93≒17.9%
EPA報告書にある燃費改善(図10の2016-2020年)の延長上であれば、2013年の346gr/㎞から271gr/㎞と18%も改善している。しかし、目標値の30%削減(231gr/㎞)には12%(40gr/㎞)程改善が足りないという結果になった。
そこで、登場するのが2018年から施行されている米国ZEV規制²⁾である。図12にZEV規制値を2018年から2025年を示した。
出典☛「ZEV規制とは?」兵庫三菱Web編集局@2018年6月30日 より加筆
ZEV規制が施行されても、2030年CO2低減率は21%!
ZEV規制におけるZEVの割合(%)は、CARBの2018年以降のZEV基準の文書³⁾から計算されるクレジット(cr)の割合を示している。決してEV化率、PHV化率を示しているわけではない。例えば、ZEVであるEVのEV走行距離が400㎞(250マイル)、TZEVであるPHVのEV走行距離が50㎞(30マイル)とすると、各クレジットは次のようになる³⁾:
❏EVクレジット=0.01×EV走行距離+0.50=0.01×250+0.5=3(cr)
❏PHVクレジット=0.01×EV走行距離+0.30=0.01×30+0.30=0.6(cr)
PHVクレジットはこんなものとしても、EVクレジットはEV走行距離が400㎞であれば3crとカウントし、600㎞であれば4crとカウントするのである。そもそも、このクレジット計算方法が余りにも甘い気がする。
例えば、2020年ZEV規制9.5%を例に取り上げると、EVクレジット6%、PHVクレジット3.5%の規制値である。台数シェアは、EVシェア@距離400㎞=6/3=2%、PHVシェア=3.5/0.6≒6%にしろ!ということだ。したがって、乗用車を100万台販売するメーカーでは、2020年にはEV=100×0.02=2万台、PHV=100×0.06=6万台を販売する義務があると考える。
当然残りの92万台は今まで通りのガソリン車でも構わない。この92万台にはMY2020-25燃費規制を厳しく施行すればまだ益しだが、トランプ政権の下では現行のMY2018規制のままである。このままでは、従来車も年々燃費基改善していくと仮定して算出した平均CO2@2030年=271gr/㎞も半分も到達しないのではないか?と思われる。ZEV規制も燃費規制も甘いままで、米国のクルマCO2など下がるわけがないと思うのは私だけであろうか?
ではその甘いZEV規制が施行されたとして、平均CO2@2030年を算出してみよう。2018年~2030年の規制値中央値は、2024年のEV=14%、PHV=5.5%。台数シェアはEV=14/3≒4.7%、PHV=5.5/0.6≒9.2%となる。ちなみに、2030年には台数シェアがEV=26/3≒8.7%、PHV=8.5/0.6≒14.2%。2030年にはPHV含めたEV化率では23%程度になる。この数値だけを見れば、米国でもEV化がかなり進むと思われる。
ところがZEV規制を導入している州は、加州含めて11州⁴⁾に限られているだ。11州でのS乗用車販売台数では全米約30%シェア。要するに、総新車販売台数1,700万台の30%、つまり約500万台はZEV規制が導入されてEV化が進むが、残りの75%、1,200万台は旧態依然としたEPA燃費データ延長線の燃費改善しかされないのである⁵⁾。したがって、ZEV規制の影響は想像以上に小さい。
簡単な計算で検証してみよう。平均CO2を算出する時、PHVの燃費は前編にてPHV=104MPG⁶⁾とした値を用いる。またEVの平均CO2はゼロであるので、全販売台数からEV台数を差し引いた。以上の仮定をもとに、ZEV規制が11州(シェア30%)で2018年から施行された場合、2016年から2030年までの15年間で販売されたクルマの平均燃費を算出する:
❏ZEV規制がされない39州(シェア70%)の平均燃費@2016-2030年=28.8MPG
❏ZEV規制施行の11州(シェア30%)の平均燃費@2016-2030年
={24.7+25.2+(104⁶⁾✖0.092+29.4⁵⁾✖0.861)✖13}/15=33.55≒33.5MPG
したがって、全米50州の平均燃費は
❏全米平均燃費@2016-2030年=28.8✖0.7+33.5✖0.3=30.21≒30.2MPG
以下、同じように平均CO2@2030年を算出:
❏平均燃費@2016-2030年=30.2MPG=30.2✖0.425=12.83≒12.8㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.8×0.70¹⁾≒8.96㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/8.96=258.9≒259gr/㎞>231gr/㎞
という結果になった。同様に第1話で定義した削減割合は
❏削減割合=1-259/346✖2.41/2.30=21.56≒21.5%
結果的にはZEV規制を施行しても、2030年にはCO2削減率は17.9➡21.5%と3.6%増加しただけで、30%には遠く及ばない。ただし、ZEV規制なしの17.9%、ZEV規制有の21.5%というCO2低減率は、欧州と同様、米国が約定した2030年目標18~21%と同じ値⁷⁾となった。米国は現実路線で到達できる目標値を単に約定したに過ぎない。政治的にZEV規制を世界にちらつかせているように思える。
ZEV規制を全米50州施行して、30%削減!
ではどうすればいいのか?すぐに思いつくのは次の2点である:
➊クレジット算出方法を3倍厳しく設定:CO2低減率28%!
❏EVクレジット=3(cr)/3=1(cr)
❏PHVクレジット=0.6(cr)/3=0.2(cr)
すると、平均値である2024年規制値から台数シェアを算出すると、EV=14/1≒14%、PHV=5.5/0.2≒27.5%となる。2030年には、EV=26/1≒26%、PHV=8.5/0.2≒42.5%。PHV含めたEV化率では何と70%弱!になる。
❏ZEV規制施行の11州(シェア30%)の平均燃費@2016-2030年
={25.0⁵⁾✖2+(104⁶⁾✖0.275+29.4✖0.585)✖13}/15=43.0≒43MPG
❏全米平均燃費@2016-2030年=28.3✖0.7+43✖0.3=29.86≒32.7MPG
❏平均燃費@2016-2030年=32.7MPG=32.7✖0.425≒13.9㎞/L
❏平均実燃費@2016-2030年=13.9×0.70¹⁾≒9.7㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/9.7≒239gr/㎞≒231gr/㎞
❏削減割合=1-239/346✖2.41/2.30=27.62≒27.6%
2030年にEV化率26%、PHV化率43%は現実的でないかもしれない。それでも、CO2削減率は28%弱である。そこで、思い切って次の策を検討してみた:
➋ZEV規制施行11州➡全米50州:CO2低減率30%!
❏平均燃費@2014-2030年=33.5MPG=33.5✖0.425≒14.2㎞/L
❏平均実燃費@2014-2030年=12.6×0.70¹⁾≒9.9㎞/L
❏平均CO2@2030年=2320/9.9=234..3≒234gr/㎞≒231gr/㎞
❏削減割合=1-231/346✖2.41/2.30=30.04≒30.0%
まさに目標達成と言ってもいい。ただし、全州施行となると各州における事情により難しいかもしれない。
米国のクルマによるCO2を2030年に2013年比で30%下げるには、現行の燃費低減+ZEV規制(11州)では不可能で、さらに思い切った施策をしなければ、30%低減などは夢のまた夢。これまでシェール革命の恩恵を受けてガソリンを使いたい放題使用して、さらには燃費が悪いSUVをシェア70%を超えるところまで進めてきたツケがここに回って来たと考えた方がいい。したがって、自国利益だけを考えずに次期バイデン政権では地球環境をも考慮して、上記の施策のように厳しく燃費規制、EV化推進に当たってもらいたいものである。@2021.1.18記
《参考文献および専門用語の解説》
1)日本の実燃費換算として、2013年には0.75、2030年には0.70を用いた。
2)2019年9月に連邦政府は加州に認めてきた免除規定(連符政府よりも厳しい規制策定・発行できる権利)を撤廃と表明。しかし加州大気資源局(CARB)は提訴。バイデン政権への移行と共にZEV(ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS)規制は認められるとの予想。
3)「Final Regulation Order – Part 3 ;ZERO-EMISSION VEHICLE STANDARDS FOR 2018 AND SUBSEQUENT MODEL YEAR PASSENGER CARS, LIGHT-DUTY TRUCKS, AND MEDIUM-DUTY VEHICLES」CARB@2012.3.22
4)「連邦政府のZEV規制潰しに反発する加州が政府を支援するメーカーの新車購入を停止」@EVsmart.Blog.net(2019.11.25)☛加州に加えてコネチカット、メイン、メリーランド、マサ チューセッツ、ニュージャージー、ニュー ヨーク、オレゴン、ロードアイランド、バー モント、コロラドの計11州☛シェア30%@2019.6時点
5)燃費データは2016年☛24.7、2017年☛25.2MPG。2018年~2030年の平均燃費29.4MPG。2016年~2030年の平均燃費は28.8MPG。
6)前編第3章第25話で熱効率40%のPHV実燃費=34.1㎞/Lとした。「NEDCモードと10・15/JC08モード」BMW@Rakuten Blog(2012.3.8)において、CAFEモード/JC08モード=1.3、要するに、米国の走行では燃費は1.3倍伸びるとしている。ここでも、同じ比率をPHVにも適用して、下記のように米国でのPHV実燃費を定めた:
PHV実燃費=34.1×1.3=44.33㎞/L=44.33/0.425=104.30≒104MPG
7)「今さら聞けないパリ協定」経産省資源エネルギー庁ホームページ@2017.8.17