これまで述べてきた第1章から第3章までの内容を簡単にまとめてみた。クルマから排出されるCO2量を2013年比で30%も削減するには、かなり思い切ったことをしなければ到達できないことが具体的な計算例で分かってきた。これまでのエンジン車燃費低減活動ではどうにもならないレベルまで主要各国はCO2を排出している。
その中にあって、日本・欧州の自動車メーカーはこれまでエンジン車の燃費低減にかなり努力を積み重ねてきた。日本はHV化、軽自動車で2019年までの6年間はシェアを60%以上を確保してきた。それでも2030年にはEV化率を10%にしなければ、パリ協定30%削減は難しい。一方、欧州はクリーンディーゼル化でシェア65%まで伸ばしてきた。ところが、2015年VW社のディーゼル排ガス不正問題で、CO2排出量が低いクリーンディーゼル車にブレーキがかかった。そこで、やむなく大きく電動化に舵を切らねばならなくなった。皮肉にもこれが世界中にEV化の口火を切るきっかけとなった。それまでほとんど眠っていたEV化に白羽の矢が立って、世界中の自動車メーカーがEVの開発にしのぎを削り始めた。
米国はCO2の第2位排出国としては、従来の延長で燃費低減を行っていた。トランプ政権時代ではSUV化率が80%を超え、シェール革命の恩恵を存分に受けていた。パリ協定からは脱退して、CO2を削減することなど一般消費者の頭の中には無いように思えた。唯一ZEV規制を施行している11州がEV化を意識して、市場に広めようとしていた。その中で、Tesla社はプレミアムEVを世に出し、注目を浴びていた。Tesla Model3は2019年には30万台も売れて、EV販売台数第1位に輝いた。
CO2排出量堂々第1、新車販売台数第1位の中国は、EV化よりも都市部の大気汚染問題に苦しんでいた。中国政府は渡りに船ということでNEVの補助金を出し、米国ZEV規制を真似たNEV規制を施行してEV化を広めようとした。結果として、2019年EV販売台数世界第1位に輝き、86万台のNEV(EV・PHV)が売れた。EV化率4%で世界平均の倍となった。
そんな中で、EVの開発は進められてきた。2020年現在、平均航続距離400㎞、平均価格400万円の高級車誕生である。最大のネック部品はリチウムイオン電池LiBの価格・性能から来るものであった。EVの三悪と言われる、価格・航続距離・充電時間は全てこのLiBによるものと言っても過言ではない。
EV三悪に対して、決してそれに手をこまねいているわけではない。電池メーカー、自動車メーカー、研究機関が今でも、より低コスト、高性能のLiB、ポストLiBの開発に尽力している。特に、政府の息がかかった中国CATL社は2020年LiB販売シェア第1位となった。中国本土にEVを売りさばくには、CATLと契約しなければ売れないようになった。世界中のメーカーがCATL社と契約を結んだ。VW社、トヨタ社、そしてTesla社も例外ではない。LiB価格も世界最安値の100$/kWh程度であり、50$/kWhも視野に入っているという勢いである。
更なる価格低減、性能向上を求めて、ポストLiBの開発をしている。2016年東工大、トヨタがサンプル作成に成功した全固体電池もその一つだ。しかし、2019年以降明るいニュースが流れてこない。現行LiBの価格、性能が良くなって来た現状から、全固体電池の優位性が示されにくくなって来たのではないか?それほどCATL発進の現行LiBは、価格・性能ともに優れていると言わざるを得ない。
更なる価格低減、性能向上のため、ポストLiBの候補者たちが手を挙げた。Li-S電池であり、フッ化物イオン電池である。これらはクルマの要求である電池使用サイクル数1,000サイクル以上には全く手が届かず、せいぜい10分の1の100サイクルレベルで止まっている。うまく開発が進んでもEV用のLi-S電池は2030年以降、フッ化物イオン電池はそれよりも後になるらしい。
残念ながら、少なくとも2030年までは現行LiBを進化させながらEVに搭載していくしかない。せいぜい車両価格:400➡350万円、航続距離:400➡450㎞、80%充電時間:30➡25分というレベルであろう。このレベルで世界の消費者はEVを積極的に購入しようとするのであろうか?したがって、クルマからCO2は2013年比で30%低減することは難しくなって来た。中国に至っては、人口増加と共に保有台数も増加していき、クルマからのCO2は増える一方である。
現行LiBのままでどういった問題が生じるのか?Well-to-WheelでCO2を考えた時、発電時のCO2低減はどうするのか?などポストLiBが出来上がるまで検討すべきことは多くあると思う。最終章では2030年頃までにこれらの問題にどう向き合って行ったらいいのか、思うところを述べていきたい。@2021.3.3記