電解液を無機系固体電解質にしたLiBが全固体電池!
全固体電池が一半の表舞台に大きく出始めたのは2016年頃と思われる。トヨタ社と東工大菅野教授との共同で全固体電池を試作。そのエネルギー密度が電解液を有する現行LiBの2倍以上になることが確認された。環境条件‐30~+100℃、200~1000サイクルの動作テストで電池容量低下はなく、この結果から考えれば、-30℃の寒冷地でもEVを走らせることが可能となる¹⁾。
図24に全固体電池の概要を示した。図から分かるように、あくまで全固体電池は電解質を無機質の固体に換えたリチウムイオン電池である。これまでのLiBでは両極材を高容量化しても、肝心のLi⁺の電解液内の移動速度が遅く、高容量化の効果を発揮することが出来なかった。ところが、2016年菅野教授らが固体電解質に無機系の硫化物系結晶(Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3²⁾☛難しいことを考えずに、Li、Si、P、S、Clの結晶体で数値が成分比を表すと考えればいい)を適用したところ、現行LiBのイオン電導率³⁾を2.5倍にも伸ばすことができた。これは現状のLiBでは約30分以上とされる急速充電時間を1/3以下にすることが出来る可能性を示した。同時に、航続距離も現在の400㎞から800㎞に伸ばすことも可能になると考えられる。これで価格さえ50$/kWh以下に抑えることが出来れば、と考えたのだ。
全固体電池により体積エネルギー密度を上げることが出来るのは、固体電解質が高い難燃性と耐熱性を持っていることによる。有機電解液では80℃以上で正極から分解された酸素で電解液を気化させ、これにより発火に繫がる(図23)ことは前話で説明した。固体電解質では200℃でも燃えない難燃性と80~150℃の高温でも耐えられる耐熱性を備える。その結果、従来LiBの電池パックに不可欠だった排気や冷却のための空間・システムを省略できることになる。さらに、従来LiBでは安全性確保のため、高電圧化を4.1~4.2Vに留められていたが、固体電解質の難燃性により4.5V程度まで引き上げることも可能となる。
以上のことから、全固体電池によりEVの三悪である航続距離、充電時間についてはかなり進化させることができそうだ。そのため、現在ではトヨタ社だけでなく、世界のどの電池メーカーでも全固体電池の開発に力を注力し始めている。
出典☛「全固体電池」高田和典@日刊工業新聞社;P15 より加筆
かつての全固体電池はセルの内部抵抗が大き過ぎるため、出力密度(kW/L)もエネルギー密度(Wh/L)も現行LiBと比較して非常に低く、全く使い物にならなかった。その高い内部抵抗の考えられる要因を図25に示した:
1)正極内の活物質と固体電解質との界面に抵抗層が発生
2)厚い固体電解質
3)両極内の活物質の凝集
4)両極内、電解質内に空隙が発生
以上の阻害要因に対して、図26に示した対策内容を施した結果、前述した電池性能が得られるようになった。
出典☛日経Automotive(2018年9月号)@日経BP社;p67 より加筆
出典☛日経Automotive(2018年9月号)@日経BP社;p72 より加筆
2030年目標はLiB性能の2倍という全固体電池はポストLiBか?
全固体電池の実用化に向けた取り組みの代表内容例を図27に示した。2030年頃までには、体積エネルギー密度で現状LiBの平均的実力である400Wh/Lから2倍の800Wh/Lまで伸ばすことを目標としていると言われている。その中でトヨタ社は先ずは2025年までに第1世代として性能は同レベルの全固体電池を実用化、そして次に第2世代として目標である2倍性能の全固体電池を2030年頃までに生産開始する予定と言われている。そのためには、
1)両極材☛LiB進化の進め方と同じ
2)固体電解質☛薄膜化
を実施することが求められているようだ。ただし、両極材については現行LiBも進化していくので、固体電荷質だけでどれだけの性能の優位性を持つことが出来るのかがポイントとなる。また現状LiBと比較して航続距離、充電時間については進化できそうであるが、先ほども触れたが、価格についてはCATL社が達成しそうな50$/kWhを下回ることが出来るのか、未だ定かではない。やはり各社とも価格、航続距離、充電時間の見極めが重要となってくる。@2021.2.24記、2021.3.2修正
出典☛日経Automotive(2018年9月号)@日経BP社;p72 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)日経Automotive(2017年2月号)@日経BP社;p48
2)固体電解質Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3☛2011年Li10GeP2S12(LGPS系)でスタートしたが、高価なGeを外した結果、コストは1/3となった。さらに、Clは不安定で組成制御が難しく、またSは大気と反応して毒性のある硫化水素を発生させる要因となる。したがって、生産性を考慮してClの代わりに、Sと反応して大気安定性に優れるSnに入れ替えて、リチウム・シリコン・リン・すず・硫黄系結晶質(LiaSibPcSndSe)の組成成分a~eの比率を隈なく探求している。@日経Automotive(2017年10月号)@日経BP社;p30
3)イオン電導率☛単位:s(ジーメンス)/㎝。ジーメンスは電導度の単位で抵抗Ωの逆数。イオン伝導率とは電解質中でのイオンの流れ易さの指標。イオン伝導率を1.0✖10⁻²➡2.5✖10⁻²s/㎝に伸ばすことができた。