HVに謳歌していた日本は、欧中米から離れていく❔
欧州・中国のEV革命の中、米国でも民主党政権が2期、4期と続くことになれば、バイデン大統領が表明しているEV化計画は実現の方向に向かうだろう。今、世界はコロナ禍の裏で確実に動いている!島国でコロナ禍で鎖国状態になった日本だけが、自動車先進国の中でEV化路線に完全に乗り遅れてしまった。一部のEV愛好者を除き、2年程前に誰がこんな状況を予想していたのであろうか?未だに信じられないが、この1年のEV化革命の動きは驚きだ。HV化を謳歌していた日本だけがEV革命から取り残されてしまったのだ。
2019年まではHV化・軽自動車化で70%シェアを誇る日本は、クルマの排出CO2量では世界の最優等生であった。変化を好まない日本人の誰もが2030年までこのまま経過していくと考えていた。第2章でも説明したように、2030年にはEV化無しでパリ協定CO2削減率26%をクルマでは達成できる。2030年にEV化を10%まで高めれば、CO2削減率は30%を超える。欧州、米国、中国はEV化率20%以上、大幅な販売台数制限等を行わなければ、パリ協定30%の達成は不可能であった。ところが、2020年世界は大きく変わり始めた。
この年、欧州では2021年規制95g/㎞が迫っていた。英国ジョンソン首相が2019年2月COP26でガソリン車、ディーゼル車、HVの新車販売禁止を5年前倒しして、2035年にすると表明。それに欧州各国、米国加州が足並みを揃える方向に動き始めた。さらに英国ではEV化を加速させるため、ガソリン車、ディーゼル車はさらに前倒しして2030年までに販売禁止、HVは2035年までに販売禁止すると表明した¹⁾。世界一のクルマ市場ではあるが、クルマの排ガスによる大気汚染に苦しんでいた中国でさえも、2035年までにNEV化を50%以上にして残りはHV化を進めようとしている²⁾。これで2035年には中国で販売される新車は100%環境対応車となる。米国もバイデン大統領に政権交代して、トランプ政権下で眠ったふりをしていたGM社、Ford社が全社挙げてEV化路線に走ると宣言した。
これに対して、日本の各社は傍観していたわけではない。例えば、図4-10に2019年6月に発表されたトヨタ社の前倒し計画が示すように、電動化計画を2030年から2025年に前倒しして、ガソリン車を半分の550万台、HV・PHV450万台、EV・FCV100万台にしようとした。しかし、あくまでガソリン車、HV中心の構成である。世界のEV化革命を背中で感じながらも、緩やかなEV化計画である。商売としてHVが儲かる時にさっさと儲けようと考えていたのかもしれない。
トヨタ社を始めとして、日産社、ホンダ社は車両価格400万円、航続距離400㎞のEVがそんなに売れのものか、世界のEV化率は当面2%前後を推移する程度、と高を括っていたのかもしれない。ところが、HVを武器として持っていない欧米各社はEV化に対する力の入れ方、本気度が全く違っていた。各国の政府も燃費規制、そしてZEV規制、NEV規制というEVの販売を促進する台数目標規制も強化していった。さらには、欧州ではカンパニーカー制度、中国では多額な補助金制度、米国の政権交代したバイデン大統領が大きくEV化に拍車を掛けた。その結果、2020年には欧州11%、中国7%のEV化率で示されるEV革命が起きているのだ。それに対して、日本政府はEVを加速する台数目標も燃費規制強化も施行されていない。これでは日本メーカーはぬるま湯に浸かり、相変わらず20世紀のエンジン熱効率向上に花を咲かせている。これではだめだと気が付き、EVを30機種も展開するとCEOが表明した米国GM社とは随分温度差がある。
リーフを華々しく発売開始して10年が経過した日産社も同じ状態にある。一時は世界第1位のEV販売台数を誇っていたが、今や6.2万台のEVを売りさばく程度の第14位EVメーカーになり下がっている。同型のZoeを中心に12.7万台のEVを販売して第7位に躍り出たルノー社とは好対照である。また、ホンダ社は初の量産EVであるHonda eを2020年10月に発売開始したが、450万円という価格の割に283㎞と航続距離が短いため、売り上げが全く伸びていない。要するに、日本の三大HVメーカーのEV化路線は、顧客が求めるEVを一日も早く出そうとする意気込もなければ、方向性も全く見失っている。
出典☛日経Automotive2019年8月号;P56 より加筆
ローカルベストは衰退への道!
日本でも大きな変化点になり得る時期はあった。2020年9月に安倍政権から菅政権に政権交代した時だ。だが新政権は安倍政策の延長路線であり、その機会を捨ててしまった。これではまずいと考えた官僚たちは、2050年までにCO2など温室効果ガスの排出をゼロとする⁴⁾、という目標を菅総理に宣言しさせた。そして具体的な事例として、2035年までにガソリン車の新車販売を禁止すると表明したのだった。欧州よりも5年遅い。これでは周回遅れと言われても仕方がない。結果的には、図4-10のHV化を柱とした、のんびりしたEV化計画を提案するトヨタ社を擁護する形となっている。どのメーカーもEV革命に対する危機感が持てない表明であった。
世界の最優等生国、日本が2030年頃には中国よりも遅れを取った自動車後進国の仲間入りする可能性が出てきた。トヨタ社はEV計画を全く明らかにしないまま⁵⁾、2020年12月FCVである、2020年12月FCVであるMIRAIのフルモデルチェンジを発表。イーロンマスクCEOから燃料電池は馬鹿電池⁶⁾、MIRAIは未来のクルマ、と揶揄されながらの発表となった。2021年1月にIT都市の実用実験としてWoven cityの着工が始まった。何か現状のHV販売による利益にしがみつき、2021年大々的に開発すべきと思われるEV開発に目をつぶって、2035年よりも遠い未来に目を向けながら現実から逃げているようにも見える。明日の仕事の基盤であるEV実行計画ができて、それからやっと明後日の理想郷の姿が描けるのである。
国内で400万台をEV化したら急激な電力不足を招き、国内の労働人口も減ると表明されているが、如何なものか?国内充電システムが心配でEV化率10%に抑えているのであれば、もっと積極的に欧州・中国にそして米国に販売すればいい。既に2020年でテスラ社は50万台、VW社は20万台のEV販売しているのだ。鶏が先か、卵が先かという議論となれば、EV化が進むと予想されてから、充電インフラの拡充をということになる。世界の大きな波に乗らず、国に水素ステーションの拡充を要求しながら、未来のクルマを年間数千台販売しているのは、一体何なのだろうか?欧州、中国が2020年でEV化率10%前後に来ているのである。2020年日本はEV化率0.7%という低レベルの自動車産業はギリギリのところ立たされているが、その状況を作ったのはあまりにもHVに依存し過ぎた結果ではないだろうか?今日と明後日の仕事をして、明日の仕事に労力を割かない日本の自動車メーカーとそれを擁護すべき日本政府に国力挙げてのEV化を再考して頂きたい。
VW社は2015年のディーゼルデフィートデバイス発覚から、5年で大きく舵を切り世界第2位のEVメーカーとなった。クリーンディーゼルが欧州シェア65%まで上り詰めた成果を見事に断ち切ったのである。中国はZEV規制の真似事と揶揄されながらも、NEV規制を着実に実行に移し、EV化率を7%まで引き上げてきた。自動車大国としての責任を果たしつつある。米国ではシェール革命の恩恵でガソリン価格が世界の1/3程度となり、ガソリンピックアップトラック、大型SUVの販売が8割を超えた現状ではあるが、何とかEV化革命の波に乗ろうとしている。この1年で世界は大きく動き、変わっているのである。
2020年の世界販売台数はコロナ禍の影響で前年比15%程度台数減となった。トヨタ社はグループで952万台⁷⁾となり、VWのグループ930万台を抜いて第1位に返り咲いた。トヨタ社単独でも10.5%減の869万台⁸⁾であった。しかし、これは過去の成果である。この中でトヨタ社は日本市場で145万台を販売している⁹⁾。つまり、世界販売台数869万台の17%程度が日本市場ということになる。17%の市場に合わせて、どうやって残りの世界市場を確保しようというのか?どうやって世界市場に調和させようとしているのであろうか?
図4-11に世界市場のEV化率推移予想例を示した。2020年欧州・中国のEV化率が高くなり、世界平均を2%前後から2倍の4%に上がってきた。それに対して、その1/2が米国、さらに1/2が日本という現状である。最近の各国政府、自動車メーカーのCEOの発言から、図4-11は納得できるEV化率推移であるように思える。世界市場のEV化率予想で、2030年日本が9%程度に留まるのに対して、欧米中は25-35%まで伸びていくと予想されている。日本市場はこのままの推移で行くと、2035年EV化13%、残り87%がHV化ということなる。日本のEV化率は世界平均予想の1/3である。中国の50/50と比較しても日本は大幅にEV化が遅れた国になり果ててしまう。HV化が現在の日本にとってローカルベストの道であったことは間違いなかったと思う。軽自動車化の道は素晴らしいかったと思う。ただし、HV化・軽自動車化という成功に浸る時間はないのである。世界中のどの技術でも例外なく過去の成功を断ち切ってきたところに新たな成功、革新が生まれる。これからは今日の仕事をする若い人たちと明日の仕事をする若い人たちが喧々諤々と議論しながら、日本独自の明日の道を切り開いていかないと日本の自動車産業を時代遅れにしていくのではないだろうか?そのためには、日本はどう戦略変更をしていけばいいのであろうか?今まさに、本当の意味で日本の自動車産業はギリギリのところに立たされていると思う。@2021.3.29記
出典☛日経Automotive2021年4月号;P71 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「ガソリン車、ディーゼル車、英が2030年までに販売禁止、35年までにHVも」読売新聞@2020.11.18
2)「中国、35年に全て環境対応車 ガソリン車排除」JiJi.COM@2020.10.28
3)日経Automotive2019年8月号;P56
4)安倍政権時代にはパリ協定での日本のCO2目標は、「2013年比で2030年26%低減、2050年80%低減」であった。ところが、世界動向から2020.10.26に行われた菅総理の所信表明演説では「2050年までにCO2をゼロにする」と宣言された。
5)2021年4月20日の上海モーターショー2021でトヨタは2025年までにbZシリーズ7車種を含め、2025年までにEV15車種を展開すると発表。GM社の2025年までにEV30車種展開を意識したか?ホンダ社も2026年春までにEV10車種を投入すると発表。売れるのか売れないのかを別にして、日本メーカーもやっと重い腰を上げた。
6)後述するが、水から水素を得るには膨大な電気エネルギーが必要。さらに、圧縮して水素タンクに入れるのにまたエネルギーが必要。概算でFCVでは元のエネルギーを半分以上捨てることになる。だから、イーロンマスク氏は馬鹿電池と呼んだと言われている。@「EV化に懸念」トヨタ自動車の「水素・FCVのこだわり」が「戦略的間違い」と考えるこれだけの理由@2021.1.6
7)「2020年世界販売、トヨタが5年ぶりに首位、前年割れも952万台」SankeiBiz@2021.1.29
8)「車の世界販売台数、15.9%減」あなたの静岡新聞@2021.1.28
9)「20年の国内新車販売台数 4年ぶりに500万台割れ」日本自動車会議所@2021.1.12