欧州CO2規制はTank-to-WheelからLCAへ
欧州、中国が中心となってクルマのCO2を削減するため、2020年遂にEV化革命が始まった。計算上は日本が生み出したHV化でもCO2を30%削減するには十分ではあるが、それは日本側の話。欧州・中国・米国はEV化に大きく流れ始めた。理由は単純にEVに賭けた?ということではなく、日本のHVに独占を許したくないという欧州の野望・戦略が見え隠れする。結果的には日本はHVを主力とするがゆえに、世界のEV化路線に大きく乗り遅れた。だから日本はどうするのか?ということだ。CO2削減の話とは別に、日本の自動車産業は大変なことになる。このままだと、日本は2035年まで中国市場へのHV供給国になり下がってしまう。目先にCO2削減削減に向かって、HV化を推進してきた日本。気が付くと世界はHVを通り越してEV革命を起こし始めている。
戦後日本が高度成長を遂げたように、先ずは謙虚になってベースに欧州戦略を取り入れることだ。やはり、大陸民族は演繹的な戦略に長けている。日本のような島国の民族では帰納的な方法しか考え付かないのかもしれない。これが当然強みとして表れてきたのであるが、今回は裏目に出てしまった。一段一段上りながら、HV化を経てEV化と考えていた。ところが、欧州ではガソリン車➡ディーゼル車➡EVとしている。HVを間に挟んでいない。明らかに、日本を意識した戦略だ。
ではどうするのか?先ずは欧州が考えている戦略を一つ一つ確認していこう。図4-12に欧州で有力な自動車の環境評価団体Green NCAPが提案するCO2排出量規制のロードマップを示した¹⁾。2020年まではTank-to-WheelのCO2排出量を規制してきた。最近では2021年95g/㎞規制がそれにあたる。これによれば、EVのCO2排出量はゼロと評価されるため、EV革命が起きたと考えてもいい。
出典☛日経Automotive2020年11月号;P14 より加筆
Well-to-WheelのEV評価では、発電時CO2抑制がポイント!
そして、欧州は次を考えた。2025年を過ぎた頃、Tank-to-WheelのCO2からWell-to-WheelのCO2の規制値に替えていくのだ。図4-13にWell-to-Wheelによるクルマの効率例を示している。エンジン車の場合、効率を上げるにはただひたすらエンジン正味熱効率ηを向上させる以外に道はない。HVも同様である。結果的に日本のHV用エンジンの熱効率ηは40%を超えるようになって来た。50%を目指すには相当なコストアップとなりそうである。一方、EVの方はといえば、発電効率を向上して発電時発生するCO2を抑えることである。これには原子力、そして再生エネルギーである太陽光発電、風力発電が非常に有効である。
出典☛「電気自動車が一番わかる」石川憲二@技術評論社 より加筆
欧州の電源構成は原子力、再生エネルギーが40%~100%!
図4-14に2019年時点の国別発電構成を比較した事例を示した。明らかに、欧州では原子力発電、再生エネルギー発電が主力となっており、40~60%となっている。フランス、スウェーデンでは100%近い。それに対して、中国、インド、日本は30%程度であり、米国でも40%弱となっている。これから分かるように、欧州の電源構成による電力を使用すれば、EV効率が高く、EV展開に非常に向いた市場ということが出来る。したがって、Well-to-WheelのCO2を考える時、如何にCO2を抑えた発電方法を多く取り入れるかが肝要となる。そういう意味では現時点でアジア、米国は発展途上国と言わざるを得ない。
また、欧州ではEV化を加速するため、2020年7月欧州委員会が2030年までに水素エネルギー普及に約50兆円規模の巨費を投じると発表¹⁾した。内訳は水素生成の水電気分解装置に最大5.2兆円、同装置と太陽光発電、風力発電との接続に最大42兆円となっている。
さらに、欧州では追い打ちをかけるように、2030年以降にWell-to-WheelのCO2排出量からLCA²⁾の排出量規制に変えていくという発表をしている。欧州はエンジンメーカー任せではなく、EUとして巨額な設備投資、CO2規制の進化により、EV革命を強く擁護している。この点が掛け声だけの日本政府の動きと大きく異なる点である。@2021.4.2記
出典☛日経Automotive2021年4月号;P69 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)日経Automotive2020年11月号
2)LCA☛Life Cycle Assessmentに略。2030年を想定し、自動車のライフサイクルでCO2排出量を評価するLCAの議論が欧州で始まった。ある製品のライフサイクル全体(資源採集☛原料生産☛製品生産☛流通・消費☛廃棄・リサイクル)から環境負荷を定量的に評価する手法である。