グリーン電力をグリーン水素で貯蓄する!
再生エネルギーにより発電されたグリーン電力を生かすためには、その出力変動を吸収する電力貯蔵システムの大量導入が必要となってくる。それさえあれば、必要なだけ発電するのではなく、大量の余剰電力を発電することが出来る。その貯蔵システムは、充放電時間や出力のオーダーにて4種類に大別できる¹⁾:
➊数秒以下の電力需要に対応できる電気2重層キャパシター
➋1-2日以下で対応できる蓄電池
➌需要の大きな変動に短時間で対応できる揚水システム
➍水を電気分解して製造するグリーン水素システム
前節では、最後のグリーン水素システムについて簡単に触れた。
改めて、グリーン水素とはその製造過程を含めてCO2の発生量がほとんどない水素のことをいう。水素は現在でも大量につくられているが、その多くは図4-18右に示したように、水蒸気改質法、部分酸化法という方法でつくられている²⁾。これらの方法では水性ガスシフト反応の際、石炭、天然ガスに含まれる炭素分がCO2として大量に排出されてしまう。そこで、石炭原料でつくられる水素をブラック水素H2、天然ガスが原料としてつくられる水素をグレー水素H2と呼ばれている。一方、図4-18左に示したように、グリーン水素H2は再生可能エネルギーから発電されたグリーン電気を用いて、水を電気分解することで得られる。その際発生するのは、酸素だけである。再生エネルギーによるグリーン電力はグリーン水素として蓄えられるのだ。
出典☛「グリーン水素でなければ意味がない」@タガギチ技術士事務所 より加筆
グリーン水素から合成液体燃料e-fuelを生成!
さて、余剰電力は水素として蓄えられた後、どう使うか?である。一般的には、1)燃料電池として電力に戻す、2)水素エンジンの燃料、などがある。ところが、今欧州を始めとして日本でも注目され開発されているのが、グリーン水素を使った合成液体燃料e-fuelの生成である³⁾。
図4-19にその生成過程の事例を示した。合成液体燃料CnH2n+2を生成するためには、先ずは大気中のCO2からCOを取り出す。次に再生エネルギーで水を分解してできたグリーン水素H2を生成する。このCOとH2で合成燃料を生成するのだ。
出典☛「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3 より加筆
液体燃料CnH2n+2は、図4-20に示すように、2段階のプロセスを経て生成される。第1段階では大気中の温暖化ガスCO2をCOに還元する逆水性ガスシフト反応⁴⁾となる。CO2とクリーン水素H2を触媒である酸化鉄、白金などを用いてCO2を還元し、COとH2Oを生成する。
第2段階として、フィッシャー・トロプッシュ法⁵⁾(Fischer-Tropsch Process)と呼ばれている化学反応で第1段階で得られたCOとグリーン水素H2から触媒反応を用いて、液体燃料CnH2n+2を合成していくのである。これらの化学反応で合成燃料である、オクタン、セタンなどが生成される。
出典☛「フィッシャー・トロプッシュ法」@Wikipedia より加筆
だが、e-fuelのコストはガソリン燃料の10倍と高い!
この合成燃料は、大気中のCO2とグリーン水素からグリーン電力による触媒反応で得られるため、カーボンニュートラルを実現していることになる。つまり、従来のエンジン車、HV、PHVで運転してもLCAのCO2排出量の大半を占める走行分のCO2はゼロということになる。さらに、現有の燃料輸送車、燃料スタンドがそのまま使えるということだ。
ただ、最大の課題はその生成コストが高すぎるということだ。現在ガソリンは原価が50円/L程度であるが、合成燃料では10倍の500円/L程度になるという。理由は設備費もさることながら、第2段階のFT反応に大量の電気エネルギーが必要とされることだ。欧州も日本もその生成研究に本腰を入れ始めた。
これがガソリン価格と同等になれば、欧州でのエンジン搭載車、特に大型乗用車のディーゼル車を救うことが出来る。これにより、大衆車である小型車は電池容量が少ないEVでLCAによるCO2の排出量を低減していく。一方、中大型車はEV化と平行して従来のエンジン搭載車にe-fuelを充填してLCAによるCO2を低減していくというシナリオが描けるのである。これにより、LCAによるCO2評価が良くない、電池容量が大きな中大型車のEV化を当面進めなくてもいい。また、プレミアムカーである米国Tesla社のEVを抑え込むことも出来るのである。
全く同じ事が日本にも言える。欧州と同じく、水素社会に国が巨費を投入して水素社会を作り上げることにより、小型車はEV、中大型車はe--fuelを使ったHVでクルマによるCO2を限りなくゼロにして、カーボンニュートラルな社会が実現できるのである。欧州と日本の大きな違いは、実現しつつあるのか、実現しようと考えているかである。@2021.4.17記
出典☛「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3 より加筆
《参考文献および専門用語の解説》
1)「走り出したCO2ゼロ行きの列車、次世代蓄電池と水素が両輪」日経XTECH@2020.12.21
2)「グリーン水素でなければ意味がない」takagichi.com@2020.10.16
3)「トヨタ・日産・ホンダが本腰、炭素中立エンジンに新燃料e-fuel」日経XTECH@2020.7.3
4)逆水性ガスシフト反応 (reverse water gas shift (RWGS) reaction) とは二酸化炭素(CO2)を水素(H2)と反応させ、一酸化炭素(CO)に変換する反応である。反応式は以下の通り:
CO2+H2⇄CO+H2O(ΔH=+41kJmol−1)
また単に逆シフト反応といわれることもある。一方、ブラック水素、グレー水素は水性ガスシフト反応を用いて水素を生成している。
5)一酸化炭素と水素(合成ガス)から触媒反応を用いて液体炭化水素を合成する一連の過程のこと。触媒としては鉄やコバルトの化合物が一般的。この方法の主な目的は、石油の代替品となる合成油や合成燃料を作り出すことである➡「フィッシャー・トロプッシュ法」@Wikipedia