「さて、午後からはもう一つのケース、米国ZEV規制を守ったら2030年平均CO2目標は達成できるのか?という検討に入る。ZEV規制は既に第4章第5話で話したよね。簡単に復習しようか?」
「そうしてもらえると助かるな。」
「ZEV規制はクレジット(cr)という値が全体に対して規制値割合以上になるように販売することが条件だったね。例えば、2018年は2%以上のZEV(cr)、2.5%以下のTZEV(cr)、トータル4.5%以上のクレジットが必要になる。具体的に言えば、10万台米国でクルマを販売している会社を例にとると、
➊EV販売台数☛100,000×0.02/2.5cr=800台以上
➋PHV販売台数☛100,000×0.025/0.6cr=4167台以下
ということで結果的には等号だけで計算すると、ZEV、TZEVでもない普通車の台数は
❏100,000-(800+4,167)=95,033台>普通車販売可能台数
となり、この台数以上は販売することができないということだったね。」
「そうでした。思い出したよ。」
「次に、ここでも同じような仮定をおくことにした:
1) ZEVはEVであり、CD距離は200マイル(320㎞相当)☛EV=2.5cr
2) TZEVはPHVであり、CD距離は30マイル(48㎞相当)☛PHV=0.6cr
3) ZEV規制は、カリフォルニア州を初めとする計11州で施行されており、これらの新車登録台数は全米の25%に達する。計算では25%シェアともう少し増加した場合の40%シェアで計算してみた。
4)2016年の平均燃費である24.7MPGを計算のベースとする。
5)ZEV規制は、あくまでZEV(cr)の下限とTZEV(cr)の上限を示しているが、計算ではZEV(cr)=規制値(%)、TZEV(cr)=規制値(%)として計算を進める。
6)ZEV規制は2025年まで公表されているが、2026年以降は未発表。そこで、2025年までのcr割合の増加割合で2030年まで実施したとする。」
「2030年となると、これくらいの仮定を置かないと確かに計算は難しいね。」
「実はどう仮定を置くかで苦労したよ。各年度のZEV規制値に対する必要な最小販売台数をEV**(万台)、PHV**(万台)、さらにこの台数による各年度の平均燃費(MPG)、平均実CO2(gr/km)を求めてみた。計算には下記の諸式を適用する:
1)各年のGV、EV、PHV台数(11州25%シェアで係数0.25、40%シェアで係数0.40):
❏EV**(万台)=1,700×規制値(%)/100×1/2.5cr×0.25(もしくは0.40)
❏PHV**(万台)=1,700×規制値(%)/100×1/0.6cr×0.25(もしくは0.40)
❏GV**(万台)=1,700-(EV**+PHV**)
2)GV燃費@2016年とその実CO2(gr/km):
❏GV燃費=24.7(MPG)
❏GV実CO2=2320/(24.7×0.425×0.70)=315.7(gr/km)
3)EV燃費とその実CO2(gr/km):
❏EV燃費=0(MPG)
❏EV実CO2=0(gr/km)
4)PHV燃費(MPG)とその実CO2(gr/km):
❏PHV燃費=38.5@図5-1×1.3(モード比率CAFE/JC08)/{0.425×0.70(モード変換⁾}=168.2(MPG)
❏PHV実CO2=60.2(gr/km)@図5-1
5)2020-2030年における各年の平均燃費(MPG)と平均実CO2(gr/km):
❏平均燃費=24.7×GV**/1,700+0×EV**/1,700+168.2×PHV**/1,700(MPG)
❏平均実CO2=315.7×GV**/1,700+0×EV**/1,700+60.2×PHV**/1,700(gr/km)
以上の諸式から計算された各年の燃費(MPG)、実CO2(gr/km)の計算結果を図5-18の表、図5-19の棒グラフに示した。結果的に、ZEV規制が11州シェア25%で施行された場合では燃費低減が不足であるため、シェア70%で施行された場合も示した。」
「ZEN規制が11州で2030年まで有効であったとしても、燃費低減速度は緩やかなんだね。」
「その通りだね。結果的には当初の予定通り11州で施行された場合では、クルマの販売シェア25%程度であるため、
CO2(2020-30年;25%)=304.3(gr/km)>285(gr/km)
と低減割合は約21%。低減目標26%である285gr/kmには全く到達できていない。2030年では1,700万台中、EV44万台、PHV60万台、合わせて104万台で、6.4%のEV化率ということになる。欧州の予想19%、IEA予想20.6%には遠く及ばない。但し、GVの低燃費化を2016年24.7MPGで止めているため、EV、PHV化の効果しか現れていない。実際にはGVの燃費改善はさらに進み、285gr/kmにもう少し近づくと思われるけれど低減不足だね。
そこで、仮にZEV調印の州が全米の70%シェアに及ぶとすると、
CO2(2020-30年;40%)=283.7(gr/km)<285(gr/km)
となって、低減割合26.5%でパリ協定は何とか守られると言える。この時2030年におけるEV化率は、17.2%になる。やはりIEA予想が示すように20%近いEV化率が必要となってくるね。これには米国が如何にZEV規制を全州に広められるかにかかっている。中国に続いてCO2排出量世界第2位の先進国なのだから、その責任は果たすべきだよね。結果的には欧州も米国もIEA予想のEV化率20.6%に近い数字を残さないと、2030年には達成できないし、2013年度比CO2を26%も下げることも難しくなるね。そういう意味では、HV、軽自動車が主体の日本は特殊な例かもしれない。これまで地道に燃費低減の努力をしてきた結果なのだろうね。」
「米国は分かって来たけれど、一方の中国はどうなの?」
「中国についてはデータが全く公表されていないため、残念ながら話をすることができないけれど、米国と同じくSUV化が進んでいるのは事実だ。2016年にはSUV=37.1%、MPV(ミニバン、バン)=8.6%、そしてトータル=45.7%となっている。2017年ではトータル53.5%と増加傾向にあり、米国と同じような状況を示している²⁰⁾。おそらく、これからの燃費改善もそう簡単に進むとは思えない。2015年末で2億7,900万台という保有台数の国は、やはり米国と同じようなEV化、PHV化により、SUV化と燃費バランスを取っていかなければならないと思っている。」
「パリ協定のCO2低減率26%だけを考えた時、日本はHV、軽自動車の恩恵でEV化は必要ないということだね。一方、欧州、米国、そしておそらく中国はEV化率が20%ほど必要ということだ。2018年のEV販売台数128万台、PHV販売台数57万台²¹⁾、総販売台数が9,800万台と言われているから言われている、2018年のEV化率は約2%。これを10倍にするということだ。」
「ところで、簡単にEV化といっても、これまで出来ていなかったということは大きな課題が山程あるから、そうは簡単に広まらないはず。」
「その通りだ。特に重要なのは次の2点だ:
1) EVの展開に当たって、現在一体何が課題として残っているのか、その見通しはどうなのかが、全く談義の中で確認されていないこと
2) 談義が“Tank-to-Wheel”燃費から“Well-to-Wheel”燃費に、そろそろ移行しないと、EV化のCO2に対する利点が不明であること
そこで、1週間ほど時間をもらって上の二つを含めたWell-to-Wheel燃費により、EVの持っているポテンシャルがどう変わっていくのか、EV化課題と共に評価したいと思っている。いよいよ核心に近づいていきたという感じだね。」
「いやあ、これは面白くなってきた。ここ数日の事を整理しておくよ。」
博士も何か充実した時間を過ごせた気がした。でも頭の中ではこれからの広がっていく談義の範囲をどうまとめていくのか、少々頭を悩まし始めた。@2019.8.13
《参考文献》
20)「上海自動車ショー2017の概要」松本邦裕@SMBC日興証券(2017.6.2)
21)「2018年電動車(エコカー)販売台数ランキング」EV業界がわかるノート@2019.5.2